今後に向けて
――向こう側へ行くとドヤ顔で言いだす母ちゃんに、その場に居た親父以外は目を丸くして驚いていると、フィオが恐る恐る母ちゃんに尋ねる。
「で、でも、向こうへ行くってどうやってですか? 私達がこっちに出るときはランダムで『扉』がどこに出るかは分からないんですよ?」
「ん? そりゃおかしいな……最初に交戦したイルギット達の姿は見えない、あっちに帰ったんじゃないのか? だとしたら帰り方は知っているはずだろ?」
「い、いや、俺達は『迎え』が来るまで帰れないってことに……そういやあいつら、いつ居なくなったんだ……?」
エリクが頭を押さえながらそういえばと、俺と一緒に居た安心感からか抜け落ちていた部分に疑問を持ち始め顔を顰めてフィオを見ると、そのフィオも青い顔で俯いており『自分たちは置いて行かれた』ということを考えているようだ。
「恐らくだけど、私が考えるにフィオやエリク、それと残されたブランダは電池代わりに残されているんでしょうね、『扉』を開くには魔力が必要だから迎えに来るというのは建前でわざと残しているってわけ。ただ、状況を報告する人間は必要だから帰還できる人も作ってたってとこよ」
「なるほどな……俺達は本当に使い捨ての駒ってわけか……!」
エリクが床を殴りながら激高すると、親父が頭に手を乗せてから口を開く。
「ああ。俺達がドラゴン討伐に向かわされたのも、陛下……いや、国王の計略だったわけだからそれくらいはするだろう。そして、そのドラゴン討伐のせいでこちら側に向こう側の人間が来訪するようになってしまった。この一連の出来事は俺達のせいでもある」
<確かに一理あるな。しかし、向こうへ行く方法はどうするのだ? 扉を開く方法は分かるまい>
「と、思うでしょ? そこはこの母ちゃんが調査して一応方法は考えてあるわ」
「う、うーん……」
自信ありげに言うその姿を見て、かつての大魔法使いの面影があるなと俺は複雑な気持ちで母ちゃんを見る。確かにミモリなら色々な知識や知恵があるので方法を確立していてもおかしくはない。
そこで、見知らぬ男がため息を吐きながら、やはり見知らぬ親子へ声をかけていた。
「仁さんも昔、騙されて魔王討伐に行ったとか言ってなかったっけか? 異世界ってのはトップが謀略で人を殺すのがデフォルトなのかよ」
「俺とは違う世界のようだが、似たようなものなのかもしれないな。……君が別世界の勇者か、俺もかつては勇者と呼ばれていたことがある者だ、仁という。よろしくな」
「勇者だった……?」
いきなりなにを言いだすのかと思ったけど、俺という事例があるので先入観を捨てて握手に応じると、仁さんの横に居た女の子がドヤ顔で俺の横に立って鼻を鳴らす。
「ウチのパパは勇者で、ママは魔王なんだから! もちろん優麻も魔法が使えるんだー<アイス>!」
「おお」
優麻ちゃんは得意気に空へ手を掲げると氷の塊を出して、
「こら、迂闊に魔法を使うんじゃない」
「痛い!? 美月おねーちゃぁぁぁん……」
「はいはい、痛かったですね。でも、魔法を見られたら解剖されちゃうから気を付けないと?」
「うう……怖い……」
仁さんに殴られていた。
隣の女の人も物騒なことを言うなあと思っていると、仁さんが母ちゃんへ顔を向けて話し出した。
「……まったく関係ない話で申し訳ないのだが、実はこの子の前に息子が産まれたんだ。しかし、召喚魔法に巻き込まれてどこか俺が元居た世界、もしくは別の世界へ飛ばされた。あなたの技術で追うことはできると思うか?」
「んー、その子の魔力が追えればあるいは。テレビのチャンネルを合わせるみたいに『扉』を開けばいけるかもしれないわ。限りなく可能性は低いけど」
「そうか……」
聞くところによると赤ん坊のころに別世界へ消え去ってしまったらしい。その時開いた穴から魔力を吸収して勇者と魔王としての力を取り戻しているのだとか。
普段は喫茶店のマスターをしていると言っているのでちょっとカッコイイと思ってしまう。すると美月と呼ばれた女の人が立ち上がり、八塚に向いて言う。
「事情は分かりました。別世界の話とはいえ犠牲者も出ている今、協力は惜しみません。二階堂グループも関与させてもらいますね!」
「ありがとうございます、美月さん。またなにか分かれば連絡しますね」
「はい! それじゃ敦司さん、仁さん、優麻ちゃん、帰りましょうか!」
「はーい! ママにケーキ買って帰ろうー」
「こんな夜中に食ったら太るぞ」
「ふんだ、敦司にいちゃん嫌い!」
小さい子は結愛の小さいころに似ているななどと思いながら、賑やかな一行は武道場を立ち去り、俺達だけが残された。
「それで母ちゃん、どうやって『扉』を開くんだ?」
「そうね、とりあえず彼らに話してもらいましょうか。あなた、連れて来たんでしょ?」
「うむ、仁さんに手伝ってもらってな」
「あれは……」
親父がジャンプして二階の観戦する場所へ飛ぶと、二人の人間を抱えて降りてくる。
それは、向こう側の人間だった――
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