事件調査活動部
「というわけで皆知っていると思うけど顧問の本庄だ」
「同じく知っていると思うけど、警部の若杉だよ」
「ええ……はい……」
「この部室凄いねー! ソファにテレビ、パソコンに冷蔵庫もあるよ!」
困惑している俺の横で真理愛がはしゃぎ回っているここは、裏庭に建設されていた部室で、ついに完成してしまいお披露目となった。
間取りは1Rのリビングのような感じで、真理愛が言った設備以外に、シンクとトイレ、クローゼットにロフトまでもがきちんとあった。風呂がないだけで、普通に暮らすことができると思う。
「ほら、興津はしゃぐんじゃない。とりあえず今日から放課後を使って事件の調査をする部活として始動する。校外活動は生徒だけでは許可しないから覚えておくように。では部長、続きを頼む」
「はい!」
本庄先生に促されて立った八塚が元気よく返事をして俺達を見渡した後、咳払いをして口を開いた。
「えー、この度部長になった八塚怜です。事件調査活動部は普通とは違う、異世界や怪奇現象を主に解決へ導くため設立しました。ご存じの通り私は誘拐され、もしかしたら死んでいたかもしれないという事件に巻き込まれました。そういう人を、学校内だけでもいいから出さないようにと考えて部を作ったわ」
そこで一区切りし、俺をチラリと見た後続ける。
「修君は異世界で勇者だったと聞いています。魔法も使えるとも。ですが、彼一人に任せるのではなく、無理をせず、みんなで協力して解決できればと考えています! 以上! ……あー、こんなことを言うの入学式以来だから緊張するわね」
「かっこよかったよー!」
真理愛が抱き着くと、苦笑しながら支えてソファに座る八塚。
そこで、若杉さんも話があると口元に笑みを浮かべながら立ちあがって話を始めた。
「さて、僕がここに居るのも不思議だろうから説明するよ。この部室は警察の管轄でもある」
「え?」
「まあその反応はしかるべきだ。けど、事実で、八塚さんのお父さんと本部長が知り合いで、この話を聞いた際、ここを臨時の交番みたいな扱いにすると決めたんだ。で、僕と今は居ないけど、もう一人派遣されてくる人間、どちらかが常駐する形になる」
マジか……!? いや、確かに令嬢が誘拐され、それが知り合いの社長の娘ならあり得る――
「……わけねえだろ!? 職権乱用じゃないか!」
「……言うな、神緒君。とはいえ、過去に脅迫があった学校に警官を常駐させた例もあるから無茶な話という訳でもないんだ。事情はともかく『八塚怜』が誘拐された、という点と君の異世界の勇者という肩書がこの部を成立させたと言っていい」
柔軟なのか適当なのか分からないけど、ひとつ言えるのは俺と八塚は『餌』なのかもしれない。真に受けるにはバカバカしい、でもそれ以外に理由が見つからない……なら、俺達に泳いでもらおうという魂胆だろう。でもあくまでも俺達は高校生なので保護できる環境に無いとマズイってところだろうな。
「ま、そんなわけで僕はここに居ることが多いはずだからなにかあれば頼ってくれ。勝手に先走らないでくれよ、神緒君?」
「オッケー、事情が分かっている人間が多いのは助かるから遠慮なく注文するよ」
「よろしくお願いします! いやあ、まさかここまでになるとは思わなかったな、俺は本庄先生が顧問になればと思ってたけど」
俺達は若杉さんと握手をして、とりあえず宣誓が終わる。そこで八塚が思い出したように本庄先生へ尋ねた。
「そういえば先生って若杉刑事のことを知っている感じでしたけど、どうしてですか?」
「……」
そこでピクリと眉を動かした本庄先生。だが、なにも言わず黙ったまま。そこへ若杉さんが口を開く。
「あれ、言ってないのかい? 彼女は僕と同じ高校の同級生なんだ、大学は別だったけどね。元々付き合っていたんだけど――」
「言うな!! 貴様、よくも『付き合っていた』などと言ったな? 浮気者を私が振ってやったんだ! 仕事だから仕方がないけど、できれば顔も見たくないわ!」
「いや、だからあれは相談に乗っていただけなんだよ。僕は聞き上手だって言われてただろ?」
「それで彼女とのデートをキャンセルするなら本末転倒だ。……相談事も女子ばかりだったろう!」
本庄先生は肩で息をしながら怒鳴り、俺達は初めて見るその姿に戦慄する。怒りの度合いが俺達を叱る時と全然違う。ただ、今の会話で本庄先生の性格を考えると――
「若杉さんが悪いな」
「だな、俺もそう思う……ってか本庄先生と付き合っていたのかよ……羨ましい……!!」
「これだけ怒ってるってことは本気で好きだったんだろうしねえ」
「若杉刑事、浮気者だったんですねー」
「あ、あれ? こりゃ部活初日からいきなりマズイ展開かな……はは……」
その後はお察しの通り、俺達生徒による説教タイムが始まり、その様子を見て本庄先生は満足気に笑っているのだったとさ。
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