八塚、やらかす
「あいつら大丈夫か? 飯くらいなら家に呼んで食べて貰ってもいいんだがな」
「うん。フィオさん優しいし、エリクさんかっこよかったもん」
「その辺は落ち着いてからかしらね。商店街の先だから、ここまで距離があるし」
「それに仕事を見つけたら、ここに来るのも大変かもしれないしな」
「まあなあ……」
<にゃー!?>
と、いうわけで自宅へ戻った俺と母ちゃんは、父ちゃんと結愛に経緯を説明した。
結愛は残念そうにな口調でスリートに釣り天井を決めていたので、即座に救出し部屋に戻る。
今日はウロウロして流石に疲れたのか、真理愛の突撃が無かったので久しぶりの会話だ。
「てなわけで、向こうの世界の二人は別の家に住むことになった」
<なるほど。まあ、廃墟で難民生活よりは格段にいいと思いますね>
そう言うこいつは最近毛並みが良くなってきた気がする。母ちゃんは適性の餌を与えるんだけど、どうも結愛が隠れて食べているお菓子を分けているようなのだ。
「まあな。というかお前、結愛に遊ばれているのによく近づくよな」
<そりゃ食い物が出てきますからね>
ビンゴか。
「あんまり受け取るなよ? 母ちゃんが怒ったらマジで怖いからな」
<……肝に銘じときますわ……で、他になにか?>
「とりあえず家猫に昇格したお前に質問があってな」
<なんですかね?>
呑気に俺のベッドで丸まってあくびをするスリートに、俺は告げる。
「フィオとエリクの様子をたまに見に行ってくれるか? 学校に行っている間が気になるんだよ。フィオとか結構可愛く成長しているから変なのが寄ってこないかとか……」
<お父さんですか!? ……うーん、家でゴロゴロするのも勇者に悪い、か……分かりやした。不詳このスリート、協力しましょう!>
「頼む。なんならスメラギも連れていってやれ」
<動きますかねえ……というより、俺はスメラギさんの家を知りませんぜ>
「おっと、そうだったか。そうだな――」
俺はひとつ思いついたことがあり、明日決行するかと思いながら就寝。
そして翌日、俺は八塚と霧夜を驚かせることになるが、同時に驚かされることにもなった。
午前中はとりあえず消化試合のように終わり、時折俺を見て不敵に笑う霧夜がキモかったが、昼休みにその理由が判明した。
「わああ、スリートだあ!」
「にゃーお」
「連れてきたの?」
「ちょっとこいつにも世界を見せてやりたくてな」
「野良猫だったのに……」
呆れて俺を見る八塚はため息を吐く。そう、俺はスリートを学校に連れてきたのだ。
セカンドバッグに詰めていたんだけど、空気穴さえあればあとは寝ているだけでいいし、意思疎通はできるので苦しかったら言うようにしていた。
「帰りに八塚の家まで行っていいか? こいつにスメラギの場所を教えておきたくて。それとフィオとエリクの場所もだな」
「フィオちゃん達も? よく分からないけど……遊びに行くってことね! 私達もフィオちゃんの家は知りたかったから、そっちに行ってから私の家でいいわね?」
「ああ、そのつもりだ……って、歩くけどいいのか?」
「もちろんよ? っと、それはそれとしてこっちも言っておくことがあったわね」
「だな」
八塚と霧夜がむふふと含み笑いをし、俺と真理愛が顔を見合わせていると、八塚がとんでもないことを口にした。
「……認められたわ」
「ん? なにが……ってまさか!?」
「そうよ! 部活よ! その名も‟事件調査活動部”よ」
「な!?」
「ええー! やったぁ!」
驚く俺と、喚起する真理愛。相反する俺達に、今度は霧夜が話し出す。
「もちろん顧問は本庄先生だ。昨日の放課後、帰り際に刑事の若杉さんのことを話すと、どうも同級生だったらしくて、そのまま電話をかけて談笑していたよ。八塚は八塚で親父さんに根回ししていたから、若杉さんも巻き込んで事件調査活動部が完成したってわけだ」
マジか……若杉さんと別れたあと、そんなことがあったとは……
「部室はいっぱいじゃなかったか?」
「今、裏庭に作らせているわ」
「なんと!?」
実は今、屋上に居るのだがフェンスの向こうを覗いてみると、確かに昨日までなかったプレハブのようなものが作り上げられていた。
「……マジでやるのか? 危険があるぞ?」
「ま、俺はサバイバル知識はあるし、逃げ足も速いぜ?」
「私はコネがあるわ。先生もだけど、警察も神緒君がやるなら協力すると言っていたみたい」
「俺?」
呟くと、八塚は頷く。
「……若杉さんの報告書、真面目に捉えている人もいるらしいの。そんな活動はするな、とも言われたけど、もしやるというなら私を助けた神緒君になにか力があるなら協力はするって」
ふむ……警察がカバーしてくれるなら吝かではないな。よく信じてくれたものだけど、逆に言えば俺の目が届かないところで勝手に動かれるよりいいという側面もある。
「……少し、考えさせてくれ」
「うん。もう部室とかは出来ちゃうから、神緒君がやらなくても私はひとりでもやるけどね」
やれやれ……そういうところは昔と変わらないんだな。
恐らく、好奇心よりも自分みたいな人を出したくないという気持ちでこぎつけたんじゃないかと思う。
「はあ……わかったよ」
……俺はため息を吐きながら部活についてOKを出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます