いつもの公園


 「いやあ、凄かったな……」

 「ああ、興津と八塚さんがめちゃくちゃ怖かった……」

 「なに、八坂君?」

 「い、いや、なんでもありませんよ!?」

 「ひゃあ!?」


 下校中、霧夜と小声で先ほど部室であった出来事を思い返しながら話していると、真理愛が背後から声をかけてきた。

 すると驚いた霧夜は背筋を伸ばして妙な返事をして、逆に真理愛を驚かせていた。


 「俺としては真理愛達より本庄先生の方が怖かったけどな」

 「まあ当事者だから仕方ないわよ。結局誤解だったみたいだから、あの二人もまた仲良くなるんじゃないかしら?」

 「だといいよねー! 今はお互いフリーだって言ってたし」


 真理愛と八塚は女子らしく、恋愛話に花を咲かせていた。

 まあ、若杉さんは真面目だし責任感が強いから浮気をするとは思えないんだよね。逆を言えば、女性の話を真摯に聞いているから勘違いされやすいんだろうな。

 ……ま、イケメンなので狙っていた女性は居た可能性は高いけど。


 「で、異世界の二人が居る家はまだなの?」

 「ああ、もう少しだよ」


 ちなみに俺達は今、フィオとエリクのシェアハウスへと向かっている。事件調査活動部はあの二人も加わって良いと本部から許可を貰っているらしい。

 明日は若杉さんの相棒となる人も来るそうなので、今のところそれが全員ということになる。


 ……問題は向こう側の人間、もしくは魔族がこちら側に来ている感じはしないし、そういった事件は――


 「あ、この公園、最近幽霊が出るって噂の場所だねー」

 「ああ、確か学校で噂になっていたな……幽霊ねえ、母ちゃんが言ってたけど、ホテルでキャバ嬢がサラリーマンに殺された事件の方が怖いぞ」

 「まだ犯人は捕まってないらしいわね……って、サラリーマンなの!?」

 「母ちゃんを甘くみてはいけない」

 <にゃーん……>

 「やっぱり勇者やっている時に幽霊とも戦ったのか?」

 「結構手強いけど、倒せないほどじゃないんだよな


 と、謎の身内上げをしたすぐ後にフィオ達のシェアハウスに入っていく。学校では鞄に収まっていてずっと身動きも喋れもしないスリートはそろそろ飽きているようだ。

 

 「こんにちはー」

 「へえ、いい場所ね」

 「同室か?」

 「いや、さすがに別だぞ。あれ? 婆さんが出てこないな……」


 入り口で声をかけるも、ちょっと怪しげな管理人の婆さんは出てこず、共有スペースでパソコンを触っている人がこちらを見て口を開く。


 「……婆さんは買い物に行っているよ。そこのインターホンで部屋番号を鳴らして部屋の住人に迎えに来てもらうといいよ」

 「あ、これか。ありがとうございます」

 「なに、うるさくされると作業の気がそがれるからね。靴を脱いで勝手に入ってもいいけど、婆さんに許可証を作ってもらうといい」

 「……どうも」


 眼鏡をかけて切れ長の目をした人に面倒くさそうな対応をされてちょっとムッとする。それに気づいた真理愛が俺の背を押しながら声をかけてきた。


 「部屋は分かっているから中へ入ろう修ちゃん! 急に行って驚かせようよ」

 「そうね! でも、シェアハウスって初めて見たけど、面白い造りね」

 「家賃が安いから学生なんかは使っているみたいだけどな。さっきの人も多分大学生だろ?」

 「ま、騒がないように注意しようぜ」


 冷たい感じの人だったなと思いながら俺はエリク、真理愛がフィオのドアのノックすると、それぞれ部屋から出てくる。


 「はーい……って、シュウ兄ちゃんじゃないか! ああ、学校が終わる時間だな。そっちは霧夜さん?」

 「霧夜でいいよ。学校のこと知ってるんだな?」

 「向こうにもあったし、あの刑事さん、だっけ? あの人に『仕事をする前にこっちの世界の常識を知っておいた方がいい』って言って、俺達に本を貸してくれたんだ」

 「あの人面倒見が凄くいいわよね。エリクに確認のデンワがかかってきたわ」

 「ああ、フィオ。そうなのか?」

 「ええ」


 曰く、飯は食べたか、とかそういう電話があったとのこと。預かっている、ということもあるだろうけど、やはり面倒見がいい性分なんだろうな。

 そんなことを思いながらエリクの部屋に集まり、話をする。


 「怜さんと霧夜さんもわざわざありがとうございます。では、明日は部室というところへ行くのですね?」

 「なんか面白そうだな! ギルドの依頼みたいで」

 「向こうほど面白いことは無いと思うけどな?」

 

 俺がそう言うと、フィオが顎に手を当てて少し考えた後、口を開いた。


 「共有スペースでここの住人と話したんですけど、近くに公園があって、最近そこで幽霊が出るって言ってました。他にも見た人が多いので、もしかしたらなにかあるのでは?」

 「ふむ……」

 「どうやら早速活動開始かしらね?」


 八塚の目がきらりと光るのを横目に、俺はどうしたものかと考えていた――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る