一応の解決へ


 [昨日、港にある廃工場から、行方不明だった人達が見つかり、現場は一時騒然としました。衰弱している被害者の方もいましたが、命に別状はないとのことです――]


 「ふあ……おはよう……」

 「おはよー兄ちゃん!! 玲さん見つかったって! 良かったねー……」

 「ああ、そうだな」

 「えー、何かてきとー! 心配じゃなかったの?」


 ――あれから二日経った。リビングでテレビを見ていた結愛に挨拶をしてソファに座ると、薄情だなんだと口を尖らせながらクッションを押し付けられた。


 昨日は姿を消して息を潜めていると、若杉刑事を始め、ポリスメンがなだれ込み無事に八塚や他の人達は病院へ搬送された。

 その様子が今、テレビでニュースになっているという訳だ。生命力を吸われていた人も命に別状がないということが僥倖というところだろう。

  

 しばらく警察は工場を捜査し、俺達の戦った傷跡に事件性を見ていたようだが、もちろんそこから向こうの世界のことが分かるはずもない。今も捜査中のようだけど、進展は無いだろう。

 コーヒーを飲みながらテレビを見ていると、クッション叩きに飽きた結愛が俺に聞いてきた。 


 「今日は玲さんのお見舞いに行くんだよね? 私も行っていい?」

 「ん? ああ、お前も知っているし大丈夫だろ」

 「やった! 真理愛ちゃんも来るよねー」


 俺が頷くと、結愛は最近の騒動のせいで外に出ていなかったため遊びに行けると喜ぶ。

 

 結愛の言う通り八塚は当日の夜に目を覚ましていて、検査のためしばらく面会謝絶だったけど、昨夜俺に電話があり心配かけたことを謝罪された。

 生贄にするつもりだったからか、魔力も生命力も吸収されてなかったのが良かったのだと推測する。誘拐騒動はこれで決着がついたようで、あそこにいた人達以外にも、警察が別の場所で行方不明者を全員見つけた。フィオ達は騙されていたことに落ち込んでいたが、国王から言われたらおかしいと思っても従うしかない部分もあるだろう。俺も騙されていたしな……


 え? スメラギ?


 あいつは――


 「ぶみゃー……」

 「あれ居たんだ!? ていうかスメラギさんめっきり老け込んだ顔になってるけどどうしちゃったの!?」

 「にゃーご……」

 「お母さーん! スメラギさんが――」


 もはや老猫のようによろよろとリビングにやってきたスメラギは、猫に戻ったことにより元気というものを失くしていた。

 あの時、八塚の傍にいたんだけど病院には連れて行けないので工場に置き去り。結局俺が回収して部屋に置いていたのだ。

 この二日、部屋の隅で丸くなっていたけど、少しは歩けるようになったのか……?


 <今日もいい天気だのう……シュウよ、飯をくれないか……>

 「割と元気だな……多分母さんが持ってくるよ。まだ立ち直れないのか」

 <にゃー……>

 

 ダメだこりゃ。

 ただの無駄飯食いと化したぶさ猫だが、一応話をしておくか。


 「今日は八塚の見舞いに行くぞ。リュックに隠してやるから、ついてこい」

 <む、お嬢か……! そうだな、落ち込んでばかりもいられないか。飯を食ったら行くとしよう>

 「お、元気が出たか? ……少しだけ……」


 シャキッと立ち上がったものの、尻尾と髭はくったくたなので完全では無いようだ。しかし、陰気な空気を部屋にまかれるよりマシなのでとりあえずは良しとしよう。


 そうそう、フィオとエリクだけど、あの二人は最初の廃ビルに潜伏している。同じところなら探しに来ないだろうし、工場よりもまだ綺麗な建物だからだ。

 ……病院に行った後合流する予定だけど、真理愛や霧夜から逃れることができるかが問題である。


 「来たよー修ちゃん!」


 そうこうしている間に我が幼馴染である暴走機関車が、満面の笑みでリビングに顔を出してきた。八塚が見つかったのが相当嬉しいのだろう。

 ま、こいつが喜んでいるなら頑張った甲斐はあったかな?

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