憐れなドラゴン
「ふう……」
<見事だシュウ。灰になった魔族は復活することはないからこれで片付いただろう>
スメラギが満足げに頷き、俺は剣を一度振ってからスメラギへ言う。
「聖剣だからか?」
<そうだな。単純な攻撃力と切れ味もそうだが、魔族を消しさるための何かが施されているようだぞ>
「そうなのか。女神から授かった、と国王から聞いたけどそもそも女神が魔族を滅ぼしてくれれば一番いいと思うよな」
<……そう、簡単なことではないのだろう。それよりお嬢の様子を見に行くぞ!>
「……」
何かを悟られないような素振りで尻尾をずるずると動かしながらフィオ達の下へ向かう。フェリゴを倒したのはいいが、先ほど現れた魔王のことも気になる。けど、すでに気配はどこにもないので考えても仕方ないかとフィオとエリクの下へ向かう。
「やったな兄貴!」
「シュウ兄ちゃん! 良かった……」
「おう、お前達も無事で良かった! 知り合いが死んだりしたら悲しいからな」
「うん。一応調べたけどみんな大丈夫、生きているわ」
八塚を含め、合計十名ほどの人が青い顔をして倒れているが、確かに胸は上下しているので呼吸をしているようだ。とりあえず安心だが、俺は気になることをふたりに尋ねることにした。
「お前達はこれからどうするんだ?」
「……それが――」
エリクが肩をすくめて語りだしたことは俺にとってもショッキングな話だった。どうやらあのモーリジェンゴに化けていたフェリゴが国王と共に計画を発動し、廃ビルで戦ったイルギットとこっちの世界へ来た。
しかし、あの時転移魔法の道具を使ったイルギット達は、一度フィオ達と合流した後、向こうの世界へと帰ってしまったらしい。
それで異世界へのゲートは一度魔力切れで閉じてしまったので、もう一度開くため魔力を回収すべくこっちの人をさらっていたそうだ。
「まんまと騙されてたってわけか」
「ごめんなさい……」
<あまり責めるなシュウ。恐らく魔力については話通りだが、生命力を吸い取っていたのはあの魔族の仕業だろう。エナジードレインは魔族を活性化させると聞く>
「確かに魔力を吸われたくらいじゃすぐ命に関わるようなことはないしな」
エリクの言葉にスメラギが頷いた。それじゃあと俺は質問を続ける。
「戻り方はわかるのか? 今の口ぶりだとフェリゴが居ないと戻れないんじゃないか?」
「兄貴の言う通りさ。一応俺も魔法使いのはしくれだけど、ゲートを開く方法までは聞かされていないんだ。やり方さえわかればどこででも開けるみたいだけど」
「そうか……どうするかな、お前達をこのままにしておくわけにもいかないし……」
と、フィオ達の処遇を考えていると、スメラギが頭をもたげ耳を澄ます仕草をした。なんだと思っていると、スメラギが口を開く。
<なにかこちらに向かっているぞ?>
「え? ……!? これ、パトカーのサイレンか!? なんでこんな寂れた場所に……」
「なに?」
フィオが首をかしげていると、工場の入り口がけたたましい音を立てて叩かれる。
(中で大きな音がしたんだ! 早く扉を開けてくれ、もしかするともしかするかもしれん!)
(ちょ、焦らないで……あー鍵落としちまった)
(はーやーく!)
「げ!? 今の声は若杉刑事か!? なんでこんなところにいるんだよ!」
<ふむ、先ほど少し外に人の気配があったがそやつだろうか? 先ほどの火球で屋根を吹き飛ばしたのを見ていたか?>
「言ってる場合か! ここで見つかったら今度こそ母ちゃんに殺られる!? ど、どうする……」
呑気に予測する駄竜の足を蹴ったその時、俺はふと右手の剣とスメラギを見て青ざめる。
「お、おい、スメラギ。お前小さくなったりできないのか……? ね、猫に戻ったりとかは」
<む? 我は誇り高きカイザードラゴンだぞ? 小さくなどなる必要などない。そしてこの姿に戻った以上、猫に戻る理由もないだろう>
「大ありだ!? この世界にゃドラゴンはいないんだ! 見つかったら世紀の大発見からの解剖まである」
<むう……しかし、暴れれば……>
「暴れたら処分される! お前、近代兵器舐めるなよ? あとは俺の聖剣もやばい……」
<解剖……>
「ど、どうするの?」
フィオが焦りの声を上げて俺の肩を揺すり、困惑した目を向けてくるが、策は一つしかない。すなわち、スメラギを置いて三人で逃げ、八塚達は刑事にお任せすること。
「……すまん」
<なんだそのすまんは!? まさか我を置いていくつもりか!?>
「いや、だってお前小さくなれないし……犠牲は少ない方が……」
<くっ……!>
状況を理解したスメラギは冷や汗をかいて小さく呻いた。鍵が開くのは時間の問題……仕方ないと俺が駆け出そうとしたその時――
「あ!?」
<何!? ぐお……!>
俺の手から聖剣が勝手に飛び出し、スメラギの腹に突き刺さった!? お、俺は何もしてないぞ?
すると、血が噴き出しそうなくらい深々と刺さったにも関わらず、そんなことは起こらなかった。さらに見守っていると、スメラギの体が輝きだし、見る見るうちに小さくなっていく。
「あ! ねこちゃん!」
<んな!? ま、まさか……?>
スメラギは前足をスッと目の前に持ってくると、なんとも言えない声を上げて絶叫した。
「いや、でもチャンスだ。このままお前はここに残れ。俺たちは気配を消して工場の隅で様子を見守る」
<……>
肉球を呆然と見ながら固まっているスメラギを放置し、俺はふたりの肩を掴み気配を消す。瞬間、工場の重苦しい扉が開いた――
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