プレイヤー2は、死亡しました。

なぁ、ホントにこれ大丈夫なわけ?

大丈夫な訳無いだろ。けど……やらなきゃ死ぬのは確かだ。

じゃ、せいぜい……死ぬなよ。

そっちこそ。


 そんな会話をしたのは、いつだったか。つい先ほどのようにも感じるし、もう何年も前のことのようにも思える。どちらにせよ、アイツとの約束は、もう守れないらしい。動かない視界が段々霞んでいくのを感じなら、ぼんやりとそう思う。

 きっとあそこで、マップの通りに左に進んでいたらこんなことにはならなかったんだろう。あの時サーチに映った敵影は、実はそんなに強くなかったのかも知れない。どこかで繋がっているだろうと高をくくって進んだ右の道は、とんでもない地獄だった。明らかに、ランク帯が二つは違う。漸く新米を抜け出したばかりの二人パーティーでは、攻略を続けることも、元の分岐点に戻ることすら、もう不可能だった。

 アイツはどうしているだろう。崖の細道を二人で分かれて、反対側で合流する手はずではあったものの、オレが引きずり下ろされていくのはアイツにも見えていたはずだ。どうせ助かりなどしないのだから、オレを見捨てて最深部まで潜りこんでしまえばワープホールがある。アイツだけでも、無事に帰れるハズだ。

 ————あぁ、アイツの気配がする。必死の剣戟が近づいてくる。もう、助かるわけないのに。アイツはただのバカだ。でも、そこでこっちに来ちまうのがアイツなんだよな。オレより強いくせにビビりで臆病で、一人でいるのが大の苦手なアイツのことだから、オレを見捨てて進むくらいなら一緒に死んだ方がマシだと思ったのかも知れない。——とんだ、大馬鹿野郎だ。


「ま、そんなところも、アイツらしいか」


 鈍い腕をじりじりと動かして、バッグから一際輝く蒼い水晶を取り出す。そろそろ、本気でヤバい。急がないと。

 どうにかこうにか起動に成功して、腰から抜いた短剣で水晶をひと突き。あっけなく破片を散らして割れると共に、視界の隅で伸ばされていた手も同時に青く光り出す。悲痛な叫びが最後まで紡がれることはなく、キラキラとした光の粒をいくつかと、アイツが最後の最後に投げたハイポーションのみを残して、アイツがここにいた痕跡は消え去った。あとはバケモノと、死にかけの人間一人。ハイポーションを飲んだところで、回復しきる前に踏み潰されるだけだろう。詰みだ。

 というか、とっくに詰んでいたのだ。アイツがどんな悪あがきをしたって、結局何も変わらなかった。むしろ最奥部に誰もたどり着けなかったんだから、結果はマイナスだろう。勿論、そこを責めるつもりも権利も、先に死ぬオレにはないけれど。

 バケモノが桁違いのサイズの足で地面を踏みならし、ついでのように踏み潰されると同時、ブラックアウト。……おしまいだ。



『っタク!! なんでそこで転送すんだよ!』

「お前までデスペナ食らってどうすんだよ! つかとっとと奥行っちまえばクリアだったのによぉ……」

『だってどっちにしろタクいないと暗号解読できないだろ!』

「試してみろよバカ。つか電話越しでも解読手伝うくらいは出来るっつの!」

『あ、そっか』

「おいお前なぁ……」


 一頻り通話越しに怒鳴り合ってから、オレは手汗でじっとり湿ったコントローラーを放り出して大きく溜息を吐いた。スマホの向こうでも硬い音がしたから、ヒロも同じようにコントローラーを置いたのだろう。


「やっぱあそこで右行ったのが敗因だよな……」

『だってあそこなんかいたじゃん!』

「いや、別にあそこにいたのが強いとも限らないんだけど……。つかあそこにいたのよりはマシだろ、絶対」

『いやぁ、強かったねぇ』

「『強かったねぇ』どころじゃねぇよ! あそこホントに一面か? 絶対Cランクはあったね」

『うん、あそこCー2だよ』

「はっ!? 何で知ってんの」


 当然のように言われた言葉に驚愕して、背もたれに預けていた背を勢いよく起こす。


『や、だって普通に左上に表示出てたし。つっても、オレも気付いたのワープ中だったからアレだけど』

「あんなところにワープホールあんのか……」

『ま、装備整えて明日また行こ』

「あぁ、おやすみ」

「お休み〜」


 終話。よし、明日こそは、ランクを一つあげてやる。

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