オレの昼飯


「好きです! 付き合ってください!」


 オレは、弁当を片手に向かっていた体育館裏のベンチまであと十メートルと言うところでぎくりと足を止めた。幸い曲がり角のギリギリ手前だったから、見つかってはいないはずだ。——多分。


「急にごめん、でもオレ、ずっと好きで、っだから、」


 イマドキ、体育館の裏で告白なんてあるんだな。浮かんだ感想はこれだけだった。少女漫画の中ではありがちでも、実際の体育館裏なんて、ムードもへったくれもない。生ゴミの饐えた臭いと給食室の排気口からの臭い空気が混ざって酷い臭いだし、北側で日が当たらないせいでじめじめして所々にコケも生えている。おおよそ告白には向かないだろう。まぁ、人が来ないと言う意味では穴場なのだが。


「ええと、……ごめんね、今は部活に集中したいから、あなたとは付き合えません。でも、好きになってくれてありがとう」


 あ、フラれた。ナイスファイト、見知らぬ男子よ。それはそうと、そろそろどいてはくれないだろうか。オレはお昼が食べたい。切実に食べたい。朝飯、寝坊して食い損ねたんだ。一度きりの青春を謳歌するのは大変結構だが、陰キャの数少ない至福の時間をこれ以上奪わないで欲しい。オレは! お昼が!! 食べたい!!!


「……うん。分かった。来てくれてありがとう。時間取らせてごめんな」

「ううん。……あのさ、酷いこと言ってるとは思うんだけど、友達にはなれないかな?」

「え、と、うん?」

「勝手にライバルだと思ってたんだ、順位表でよく近くにいるから」

「っオレも! 最初は順位表で見つけて、どんな人か気になって……」


 あの、そこで良い雰囲気にならないでもらえますか。雑談始めないでくれよ。いや、始めても良いけど移動しようぜ。こんな薄暗いところじゃなくてさ。君たちには他にもおしゃべりできるところがあるだろう。オレの唯一の居場所をこれ以上占拠しないでくれよ、頼むから。


「文系だよね? 私国語苦手でさ。逆に数学は教えられると思うし」

「マジで? 数学教えてもらえるならかなり助かる! 国語は全然教えられるし!」


 もう良いだろ。さっきのところまでは百歩譲れば人に聞かれたくない話かも知れないけど、その話教室でも出来るだろ。放課後図書館でも行って教えあいっこして、その内女子の方の家にお邪魔して、『オレ女の子の家にいる!?!?』とか『部屋着可愛いな』とかやってれば良い。そんで休憩のつもりが変な空気になってちょっとやらかした時に親が帰ってきて気まずくなってちょっと疎遠になった後『あの時断っておいて悪いと思ってるんだけど……』とかいう展開になれば良い。あんなこと現実で起こるわけないと思うけど。


キーンコーンカーンコーン


「あ、チャイムなっちゃった。えっとじゃあ、」

「あ、LINEだけ交換しちゃってもいい?」

「うん、……じゃ、友達として……お願いします」

「うん、よろしくね」


 無慈悲なチャイムが、屋上のスピーカーから鳴り響いた。お二人さんは少し照れながらLINEのIDを交換して、仲良く校舎に戻っていく。西校舎だから、後輩か。結構なことだ。リア充め、末永く爆発しろ。

 つか、弁当食い損ねたし。次数学だし。小テストあるから、とっとと食べて対策しときたかったのに。落ちたら恨んでやる。末代まで呪ってやる。オレみたいな陰キャと違って、お前達は末代じゃないだろうからな。

 そんで、昼いつ食うよ。放課後か? 腐ってないと良いけど。放課後のこの辺って、掃除のヤツらくるから食えないじゃん。どこで食えと。近所の公園のブランコで昼食ってたらただの不審者じゃねぇ? 小学生に通報されそう。

 そんなことを考えている内にも、刻一刻と授業の開始時間は迫っている。取り敢えず、弁当は後回しで小テストのために悪あがきすることにしよう。

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