苦しみ

 夏も終わり、秋になった。皆、涼しい涼しいというが、小柳は自分の部屋の暖房を思いっきり点けていた。真柴は、今日も半そでだ。腕の筋肉ががっちりしていてかっこいい。

 「今日、なんかあったか?」

 ふと真柴が訊いてくる。最近、真柴で抜くようになってしまって、それが申し訳なくて真柴を避けるようになった。彼は、それに気づいている。

 「…特に、なにも」

 「そうか」

 今日も真柴をおいて先に帰るつもりだった。しかし、真柴は強引に一緒についてくる。それもかっこいい。それもうれしい。

 小柳は、いつものように心の中で真柴に謝った。ごめん、真柴。今日もお前で抜いてしまった。真柴はかっこよすぎる。

 真柴が、好きすぎる。


 そんなこんなで、冬になった。この地域はよく雪が降る。そして、積もる。何故か真柴に塾の帰りを待ち伏せされて、何故か一緒に鎌倉を作って、何故かそれに潜った。

 「いい年して何やってんだろうな」

 そう言いながらも、真柴は楽しそうだった。そういう面があるのも、ちょっとかわいい。

 「ごめん」いつの間にか、小柳はそう言っていた。

 「どうした、いきなり?」真柴は、小柳の頭を撫でた。

 小柳は、そんな真柴の手を振り払う。嫌だった。真柴に優しくされるのが。真柴に触られるのが。真柴の一言一言で勃ちそうになるのが。

 いつの間にか、小柳は泣いていた。もう、限界だった。

 「ごめん。帰る」

 「え?ちょっ、小柳?」

 小柳は、真柴の顔も見ずにスタスタと家へ帰った。


 あの日、真柴の手を振り払って、強引に帰ってから、真柴から連絡が来なかった。呆れられただろうか。怒っただろうか。

 もう、何もかもが、どうでもよくなった。

 小柳は、真柴のことが好きだ。

 真柴の一つ一つのしぐさ、真柴の一言一言、真柴の全てが好きだ。

 でも、その気持ちは忘れなくてはならない。真柴を好きでいてはならない。好きでいたいけど、ダメなんだ。許されない。

 告白しようと、何度思ったことか。真柴ならきっと、気持ち悪がったりせずに、受け止めてくれるはずだと、何度自分で考えたか。

 でも、それでも、怖かった。

 真柴に気持ち悪いと思われるのが。

 真柴に嫌われるのが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る