第6話 ジョセフの弟子、長瀬尚一(その1)

 ジョセフを通して尚一はワトソン王国の国王に事の状況を説明した。


 マフディーという神から魔人族から世界を救出するべく勇者として召喚されたこと、その中に何の能力も持たずに召喚されたことで口封じとしてセントルイス王国のジャギィとアマリリスから送られた刺客によって暗殺されそうになったことを洗いざらい話した。


 勝手な理由で召喚されたと思えば無能だからと理不尽に殺されそうになった。そのことにワトソン王国の国王と周囲にいた者達はドン引きしていた。


 「というわけで王様、この少年の身柄の保証はしますのでどうかこの国での滞在を許してもらえますか?」


 「うむ、ジョセフが言うのであればこの国での滞在を許可しよう。それとジョセフ、リサとはもうしたのか?」


 「陛下、いくら何でもこの場でその話は……」


 リサはワトソン王国の王女であり、ジョセフの婚約者だ。ジョセフの発言を呑んだのもそれが影響されていることもあるのだろうが、王様はリサとジョセフとの間に生まれた子供の顔をいち早く見たい気持ちが一転してしまったのだろう。


 「ホームズ王国の国王になった草凪誠くさなぎまことの頼みだからセントルイス王国とか言う遠出の場所まで調査したつもりだったが尚一という召喚された人物の証言に嘘偽りはありませんのでもう俺達がわざわざ調査する必要もないでしょう?」


 「その辺りは余がホームズ王国に使いを送り報告するので調査ご苦労、それと……速く孫の顔が……」


 「――場を弁えてください。それと俺は明日からまた復学しますので」


 「はい……」


 王様はしょんぼりと俯き、ジョセフは溜め息を吐きながら尚一をどこかへ連れていく。


 「いいのか師匠、仮にもこの国の王様だろ?」


 「いつものことだ。リサと結婚が決まってからずっとあの調子なんだよ……だから本当は王様に顔見せたくはなかったんだが身元不明の人間である君が襲われずにここで生活するにはこうせざるを得なかった」


 ジョセフは頭を抱えながら義父のことが脳内に過り、尚一は(ご愁傷さまです)と内心思っていたのだ。


 「取り敢えず、宿は手配しておいたからここへ行くといい。それとこの金で武器なりなんなり明日の朝にでも揃えておいたらどうかな?俺は明日から学校があるからそれが終わったら冒険者ギルドに言って登録済ませて訓練がてらクエストでもするか」


 宿の場所が記された地図を渡された尚一は、そのままコクリと頷きながらジョセフと別れる。


 「師匠が今年で十八歳ならリサ姫の年齢は現在…………じっ、十四歳じゃん!」


 尚一はジョセフとリサの年齢差に驚きのあまり大声をあげた。


 この世界では早くても十四歳までには婚約して相手を決めるらしいのだが異世界に来たばかりの尚一に知る余地はなかった。


 「師匠が言いたがらないわけだよ……小説でもリサ姫が強引に婚約の話を持ち出して結局断れなかったそうだし」


 尚一はジョセフがロリコン認定されることを恐怖していたことを痛感するほど理解しており、地図に記されていた宿屋まで到着したのだ。


 宿屋の扉をゆっくり開け、中に入ると受付嬢が「いらっしゃいませ~」と明るく声をかけてくれたのだ。


 「あの~、”月の宿”ってここで間違いないですか?」


 「そうだけどもしかしてジョセフさんが連れてきた少年ってのはあなた?」


 「ええ、尚一って言います……」


 「そうなんだ、私はこの宿で働いているローラよ。私が魅力的すぎるからって襲わないでね」


 受付嬢のローラはウインクをした後尚一に投げキッスをした。


 「ソレハナイデス」


 尚一は棒読みで手を横に振りながらスルーした。


 「ちょっと、その反応酷いんですけど……」


 しくしくと泣き始めたローラに慌てた尚一は「すみません」と何度の謝り続けた。


 「嘘だよーん、向こうの部屋が空いてますからあそこを使ってくださいね」


 噓泣きだったようで、女の涙に騙された尚一は顔を引き攣らせながら女性恐怖症になりかけていた。


 宿代の支払いを済ませ、ローラに言われた部屋に入った。尚一はすぐさまベッドへと飛び込み眠りについた。


 地球では地獄のような毎日を送っていたかと思えば急に異世界へと集団転移し、勇者の御同胞だから自分も凄い存在になったかと思えば地球にいた時と大差変わらず周囲から無能扱いされ存在を隠蔽されかけたりと最悪なものだったがジョセフに拾われたことで救われた。


 尚一にとってマフディーなんかよりもジョセフが神様なのではと思えてしまうほどだ。


 翌日、尚一は異世界に飛ばされて二日目の朝が訪れた。


 一階にある食堂へと向かい、テーブルに座ると食事が置かれた。


 朝食はシンプルなものでパンにスープ、サラダといったあっさりしたものだ。


 「いただきます」


 尚一は手を合わせながら食事を始める。周囲にいた人たちは手を合わせる尚一を見て何故かきょとんとしていた。


 異世界の住人にとっては不思議な光景に見えたのだろうか、どちらにせよ視線がとてもきつく尚一は食事に集中できていなかった。


 気にしては食事がいつまでも終わらないと思い、尚一はスープを口の中に含めた。


 スープは予想通りあっさりとしており、朝には丁度いい味だ。サラダも食べてみるとこれもまた水気は多いが味はしっかりとしており栄養面も安心できそうだ。


 最後にパンだがこれも中身はとてもふんわりしており、口の中に広がるバターの味は絶品だ。


 米派の尚一ではあるのだが初めて体験した異世界での食事はとても新鮮であり、ジョセフが小説で語っていたことと内容が違ったのは恐らく個人の感想と言えるだろう。


 (まさか異世界でこんな風に生活できる日が来るとはな……)


 奈落のどん底に落とされたかと思えば拾われて現在、平穏な生活を手に入れることのできた幸福感を考えれば仕方のないことだろう。


 それでも、尚一は故郷である地球、日本への帰還を望んでいた。


 尚一はジョセフと違い、地球でやりたいことが沢山あったのだ。


 ジョセフのように毎日が地獄だと思うわけでもなく、ただ平穏にオタク活動をしたい尚一にとって勝手に異世界召喚され無能扱いされた挙句、追放されて殺されかけたりと理不尽な目に遭えば誰だって地球への帰還を考えるに至るだろう。


 朝食を食べ終えると、尚一は宿でゴロゴロとしていた。


 ジョセフが学校から戻って来るまではむやみやたらにどこかへ出かけトラブルにでも巻き込まれれば大変だからだ。


 そんなことを思いながら尚一は昼寝をしていたのだ。

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落ちこぼれ高校生と異世界美少女 JoJo @jojorock

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