第3話 追放

 尚一はアマリリスに別室に連れられ、「国王陛下にあなたのことを報告しますのでお待ちください」と言われ三十分ほど待たされ尚一は一人、別室にある席に座らされた。


 「――残念ですがそういうことです」


 尚一の予想していた通りのことをアマリリスに言われる。


 「そうですか、勇者パーティの中に一人だけスキルも称号も持たないものがいるのは迷惑だから速やかに出て行ってほしいんですね?」


 アマリリスの言いたいことは分からないことでもなかった。


 そう、尚一はスポーツチームで言うところの戦力外通告、社会で言うならば社会不適合者の烙印を押されたも同然だった。


 尚一自身、異世界に来てまで落ちこぼれで足手纏いの称号を与えられおめおめと残るつもりはなかった。


 せっかく異世界に召喚されたわけでもあるので旅をしながら帰還する方法を探るのもいいかもしれないと前向きに考えていた。尚一は唾をもみ込みながらコクリと頷きアマリリスの言うことを聞くことにした。


 「話のお早い方ですね。私は嫌いじゃないわ……それと餞別にしては少ない方ですがこれはこの世界の通貨ですので無駄遣いせずに暮らしていれば四か月は生活できると思います」


 アマリリスはそう言いながら硬貨の入った革袋を尚一に渡した。


 中には金貨五枚と銀貨十枚が入っていた。


 この世界の物価が分からない以上、尚一は信用してもいいものか分からなかったがそれを拒否するわけにもいかなかった。


 「勇者様達と顔を合わせることになるでしょうから、城下町に武器屋がありますのでそこで装備を整えるか、我が国の領土のウォークという隣街に移っていただきそこで普通に働くか魔物の駆除や護衛、運搬の依頼を受ける冒険者になるなりお好きに生活してください」


 「………そうですか、みんなには俺が自分から出て行ったと伝えてもらってもいいですか?」


 尚一は自信が愛読していた”神様の手違いで異世界に転移させられた俺が異世界でハーレム生活じゅうじつになりました”の主人公、ジョセフ・ジョーンズのように無能力の状態で冒険者になるのもいいと思い、レベルを少しずつ上げて成長できればいいと思っていた。事の展開が早すぎて驚いてはいたもののどの道旅に出るつもりでいたようだ。


 そんな直和の言葉にアマリリスは微笑を浮かべる。

 

「はい、勇者様達にはお伝えしておきますね。それではお元気で」


 尚一はアマリリスに追加で城下町の地図を渡され、今までいた宮殿を後にするのだった。


 外から見た宮殿は中世ヨーロッパ風の城で、城下町も賑わっていた。


 尚一は地図を開き、地図に記された武器屋で駆け出しの冒険者用の革の鎧に手袋、黒いマントにロングソードを購入した。


 ロングソードは武器屋で一番安いものだがゴブリン程度の魔物を相手にするなら耐久性はそれなりにあるとのことだ。


 武器屋以外に食料を調達するついでに城下町を歩いていると今現在革袋に入っている貨幣通貨の価値が少しわかるようになっていた。


 銅貨が一円とするならば銀貨は百円、金貨は一万円と考えてよさそうだ。


 話によると金貨の上にプラチナ金貨というものがあるようでそれを所持しているのは公爵や国王クラスであるため、庶民が見ることは殆どないそうだ。


 装備品と食料で金貨一枚と銀貨五枚を使用してしまったため、所持金は日本円だとおおよそ四万五百円程度だ。


 宿代もどのくらいかかるか分からないため、野宿することが増えるかもしれないのでほぼギリギリの生活を強いられるのは間違いないだろう。


 尚一はそう考えながら王都を出て森へと向かった。


 森に入った頃には日は沈みかけており、街に辿り着くのは夜になるだろう。


 ある程度森を歩いていた尚一の背後から馬の掛ける音が聞こえてきた。


 「まさか、盗賊か?」


 盗賊だと思って警戒しながら後ろを振り向いた尚一は剣を鞘から抜き構えた。


 馬に乗った騎士が五人、こちらに向かってきていた。


 騎士達は尚一に追いつくと勢いよく下馬し、尚一に話しかける。


 「ナガセ様、勇者様達には旅に出られたことはしっかりと伝えました」


 「ありがとうございます……そのためにわざわざ森まで?」


 尚一の問いかけに騎士達は不敵な笑みを浮かべていた。


 その瞬間、尚一は全てを悟った。


 これはジャギィとアマリリスの策略であると。


 召喚した勇者とその同胞の中に力を持たないものが召喚されたと知られたくはなかったのだろう。そのための口封じとして長瀬尚一という存在を亡き者にして全てを隠蔽するつもりであると。


 「いえ、これも全て陛下と王女の命令です。――悪く思うなよ、死ねぇ!」


 「そんなことだろうと思ったよ!」


 尚一は構えていた剣で応戦しようと試みるも、戦闘訓練を受けていた騎士たちの方が二手三手先を行っており、勝負にならなかった。


 しかし、尚一は諦めなかった。


 異世界に勝手に召喚された上に黙って無抵抗のまま死んでいくなんてことは好きだった小説の主人公、ジョセフ・ジョーンズもしないと。ジョセフ・ジョーンズは負ける戦いだと分かっても全力で立ち向かい、リサ・ワトソンと出会い本当の愛を知り強くなったことを思い出していた。


 「こんなところで……黙って死んでたまるか!」


 尚一は握っているロングソードをがむしゃらに振り回し、騎士達に抵抗する。


 騎士達は尚一の鬼気迫る表情と火事場の馬鹿力の如く、力強く機敏になった尚一の攻撃に反応が遅れていた。


 「こいつ、無能力でレベル1のステータスも一般人レベルなのにどこにそんな力が……?」


 しかし、それも長く続くことはなかった。


 尚一は勢いに任せて剣を振り回しただけなのですぐに息を切らしてしまい、隙を見た騎士に胸に剣が突き刺さる。


 「ぐふぅあ…………」


 騎士は不敵な笑みを浮かべながら突き刺した剣を引き抜き、尚一は吐血しながらうつ伏せになりながら地面へと倒れる。


 「てっ……てめえら、殺してやる……必ず殺してやるからな……」


 「けっ、お前はどの道死ぬんだよ。それにこの金は王女と陛下が俺達で好きに使っていいんだとよ」


 「おいおい、早く祝杯しようぜ」


 「いいねいいねぇ、行こうぜ。血の臭いに誘われた魔物にでも食われるだろうし早くここから去ろうぜ」


 尚一の意識は段々と遠のき、騎士達は尚一が所持していた金貨と銀貨を全て奪い取り、騎士達は馬に乗り世紀末の荒くれ者のように「ヒャッハー!」と叫びながら森の中を去っていた。

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