第2話 ステータス

 尚一達は異世界での戦争に参加する以上は戦う術を身に付けるしかなく、地球人もとい日本人の潜在能力が異世界の人間よりも数倍以上の力があってもそれを引き出せる強さと技量がなければ意味がなかったのだ。


 第二次世界大戦以降、日本人は戦争しない為の憲法を設立してからそれを破ることなく七十年以上も平和を維持しているため、平和主義の日本人をいきなり戦場に駆り出して魔物や魔人族、悪魔と戦わせるのは分が悪いものだ。


 その辺りもジャギィとグイールも想定済みだったからなのか事前に騎士団団長に戦闘訓練をするように指示をしていたようだ。


 和泉はあまりにも事が早くに運ばれていることに疑問を感じ、胡散臭くも思っていた。それでも、帰る手段がないためにこんな胡散臭い頼みごとを受け入れざるを得ない状況に不満を持ちつつも心の奥底に仕舞い込めたのだ。


 生徒達も落ち着きを取り戻したころ、ジャギィが立ち上がり口を開いた。


 「それでは、これから戦うために己自信の実力を知る必要があるので今から受け取るものを肌身離さず持ち歩くように、私はまだやらねばならぬことがあるので後は任せたぞ」


 「了解しました」


 ジャギィはそう言い残した後謁見の間を後にし、それを見送るグイールの背中を見ながら尚一は何を受け取るのか想像していた。


 尚一の周囲にいた生徒達も同様で不思議そうな表情を浮かべながらもわいわいがやがやと何の疑問も持たずに楽しんでいた。


 謁見の間にいた生徒達に透明な緑色のプレートを配布され、騎士団団長らしき風格を漂わせていた屈強な体を持つ男が生徒達の眼前に現れ口を開く。


 「全員、プレートは配布されたな?自己紹介をしておこう、私はセントルイス王国騎士団団長のドロス・キマリスだ。このプレートは、自身又は敵の魔力や戦闘能力を計測することが可能ないわばだ。そしてこのステータスプレートは身分証明書代わりにもなるため何があっても大丈夫なはずだ。失くすんじゃないぞ」


 ドロスは見た目とは裏腹に気楽なしゃべり口調で話し、他の騎士団員達に対しても普通に接するように敬語を禁止にしていたのだ。


 尚一達もその方が気楽で、一回り以上年上の人達から高圧的な態度を取られてもこれからの異世界で居心地が悪いものだ。


 「そのプレートと一緒に針を渡したと思うが、その針で指に差して血を染み込ませてくれ。それで所有者の登録完了だ。”ステータス”と言えば自分のステータスが、”計測”と言いながら相手の方へ向けるとステータスを表示することが可能だ」


 ドロスの説明に頷きつつも、顔を顰めていた生徒達は針で指を刺し血が浮かび上がり、それをプレートに擦り付けるように染み込ませた。


 プレートは紅く発光し、尚一も同様に躊躇いながら血を染み込ませた。


 すると、尚一のプレートも他の生徒同様に淡く紅くし、インクが染み込むように緑色のプレートに黄色の文字が浮かび上がる。尚一達は瞳孔を開きプレートに染み込んだ文字を確認する。


 【長瀬尚一】

 レベル:1

 年齢:17歳

 戦闘力:10

 体力:10

 魔力:10

 耐性:10

 知力:20

 筋力:5

 敏捷:10

 スキル:言語理解


 それのみが表示され、ギフトにユニークスキル、称号どころか属性魔法すらなかった。


 ゲームのキャラクターのように表示がされ、なんだか気持ちの悪いものだとも感じたが初期段階のステータスと考えれば妥当なものだと割り切った。これから強くなればスキルも習得できるかもしれないと可能性を見出しているその時だった。


 「レベル一でこのステータスは大したものだな。しかも勇者か」


 ドロスは孝二下へと駆け付け、ステータスの高さに驚きを隠せずにいた。


 【浦堀孝二】

 レベル:1

 年齢:17

 戦闘力:100

 体力:100

 魔力:100

 耐性:100

 知力;100

 筋力:100

 敏捷:100

 スキル:言語理解・気配感知・魔力感知・自動高速魔力回復・全属性魔法適正・全属性耐性・物理耐性・リミッター解除・先読み・剣技

 称号:勇者


 孝二のステータスはチートの権化そのものであり、ドロスは尚一達の方を向き口を開く。


 「通常、レベル一でここまでの強さとスキルの所持はあり得ないことだ。属性魔法は基本一人につき一つの属性に適正を持ち、稀に二つ、三つと持つものも現れることもある……彼は称号も勇者ということもあってかなり優秀なポテンシャルとステータスを持っていることになる」


 ドロスはそう前置きをしながらステータスの内容を簡単に説明した。


 「”レベル”が1と書いてあるが人間の上限は100までだ。しかし、人間でレベル100までに達する人間などはそうそういない。レベルの上限に到達せずに自分の潜在能力を全て発揮できるとしたらそれは魔眼かそれをも凌駕する覇王眼辺りを開眼せねば不可能だ」


 レベルに比例してステータスも上がるわけではなく、人間の価値は全てステータスに表示されている数値で結果が決まるため、その辺りは完全にゲームのそれと同じだ。


 それは結論、尚一はどんなに努力をしても孝二以上の強さを得ることは不可能だということであり、日本にいた頃と何ら変わらない生活を強いられることになるということでもある。


 「ん~、どれどれっ、長瀬のステータス見ろよ~。何もかもが平均的すぎて戦力にすらならねえ状況だぜ。落ちこぼれの長瀬はこの世界でも無能とか本島に使えねえな」


 「無能は早くここから出て行けよ!」


 「お前本当にここに呼ばれた意味あるのか?」


 「実は何かの間違いで呼ばれただけだろ?」


 山田、藤木、一藤、中野の四人はまたしても尚一のステータス情報を強引に確認すると罵り始め、尚一は「そうだねぇ……」と苦笑いしながら自分を卑下していた。


 「ほう、そちらにいらっしゃるのが勇者様とその御同胞ですか?」


 「アマリリス姫、いつの間に謁見の間に……」


 アマリリスと名乗る白いドレスに濃いめの長いブロンドヘアーはドロスの方へと駆け寄り、生徒達に視線を向け咳払いをした。


 「盛り上がっている最中申し訳ありません。私はこのセントルイス王国第一王女、アマリリス・グリント・セントルイスと申します」


 アマリリスの年齢は推定だが尚一達と同年代でグラマラス体型であったがどこか腹黒さを持ち合わせていそうな感じで、異世界ファンタジーでは悪役令嬢のような雰囲気を漂わせていたが、尚一以外の男子達はアマリリスの妖艶な美貌に魅了され鼻の下を伸ばしていた。


 「ちょっと山田君、どうしてそんな風に尚一君のことをバカにするの?」


 玲凰は尚一を罵る山田達を責めるように睥睨するも、山田達は変わらずヘラヘラと不敵な笑みを浮かべながら、平然と言い放つ。


 「城村さん、こんな落ちこぼれと一緒にいないで俺達と一緒にいた方がいいよ」


 「そうだぜ、こんな弱っちい奴といたってメリットなんかないしよ」


 「それな」


 「俺もそう思う」


 そんな四人の言葉に玲凰は瞳を潤わせていると香澄が現れる。


 「何をやっているんですかあなた達は?仲間を笑うなんて先生として許せません!」


 「あ~あ、香澄せんせーが来たんじゃぁ面倒だしな……ちっ、行こうぜ」


 「「「そうだな」」」


 山田は舌打ちをしながら取り巻きの三人を連れて尚一達から離れる。


 「尚一君、ごめんなさいね……」


 「いいんだよ。実際僕が無能なのがいけないわけで……」


 「そんなあ事ありませんよ、私も長瀬君のようにステータスは平均値ですので」


 【小畑香澄】

レベル:1

 年齢:24

 戦闘力:5

 体力:10

 魔力:100

 耐性:10

 知力;30

 筋力:5

 敏捷:5

 スキル:言語理解・気象調整・土壌回復・錬成・品種改良

 称号:開拓者


 香澄のステータスは確かに平均値ではあったが魔力に関しては勇者である孝二と同じ数値であることに愕然とし、他の生徒達のステータスも確認してみるとみんな尚一よりも数値が高く勇者の同胞としての戦力を持ち合わせていた。


 「ナガセ様、すみませんがこれから別室にて少しお話をしたいのでご同行おねがいできますか?……他の皆様はもう暫くここでお待ちください」


 尚一はアマリリスに何を言われるのか瞬時に予想し、選択肢がなかった為頷くしかなかった。


 「分かりました……」


 「尚一君」「長瀬君」


 玲凰と香澄は不安げに尚一の名を叫び、他のクラスメイト達の方を向くと孝二達も心配そうな視線を向けていた。

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