鍵穴のあるラブレター

@tukimotokiseki

第1話 ある朝、

ある朝、起きると自分の周りが鍵穴だらけだった。朝に弱い俺にとって、それを理解するのにはとにかく時間がかかった。

やっと理解すると、顔から血の気が引いていった。なんだここは?

周りには壁が四つあった。色も自分の部屋と同じだ。でも、タンスや勉強机は消えていて、代わりに壁一面に鍵穴があった。自分の寝ているベッド以外全てが消えていた。

すると、横に封筒があることに気づく。小さなレターセットだった。中に何か硬いものが入っていた。すぐにそれを開ける。

手紙と鍵が入っていた。手紙には、女性のものと思われる綺麗な時で次のことが書かれていた。

『こんにちは。私はリルルという者です。あなたは今、きっと鍵穴だらけの部屋にいます。そこは異次元です。あなたは、私のいる世界の王に試されているのです。1世紀に一度、人間の住む世界から一人、鍵の番人が選ばれるのです。あなたは、その候補に選ばれたのです。この封筒に同封された鍵を、壁一面にある鍵穴に差し込むことができたら、合格です。その鍵に合う鍵穴は一つしかありません。鍵穴に差し込んでみることは3回しか出来ません。差し込む鍵穴を間違えると、あなたの体は吹っ飛びます。もし、3回鍵を差し込んでも鍵に合う鍵穴が見つけられなければ、あなたは殺されてしまいます。頑張って下さい。応援しています。   イルル』

は?

俺はそうとしか言えなかった。異次元?イルルという女?人間の住む世界?鍵の番人?1世紀に一人?吹っ飛ぶ?殺される?頑張って下さい?

は?

 とにかく、これは夢だ。寝よう。そして起きたら、またババアに叩き起こされるんだ。そう思ってベッドにまた潜ったが、全然寝れなかった。ちらっとまた壁を見てみると、まだ鍵穴だらけだった。俺は大きな大きなため息を吐いた。まあ、信じるしかない、と思ってしまったのだった。

 「えーっと。とにかく、この鍵に合う鍵穴を見つけりゃいいんだな?たった3回しか試せない」俺は小さく考える。「ま、勘だな」

 俺は、一番近くにあった壁のど真ん中の鍵穴に、鍵を差し込んでみる。その瞬間、俺の体は吹っ飛んだ。ベッドに思いっきりぶつかる。

 「イタッ」

 そうだ。違う鍵穴に差し込もうとすると、俺が吹っ飛ぶんだった。

 俺は、ぶつけた背中を擦りながら、壁を見渡す。鍵穴は数えきれないほどあった。その中から、ちょうどこの鍵に合う鍵穴を探せだと?ふざけんなよ。頭おかしいって、こんなのクリアできる人。

 いや、もしかしたら、この手紙の中に書かれている「鍵の番人」っていうのは、こういうのを自分の感覚か何かで当てられるのかもしれない。だとすると、その候補に選ばれた俺は、当てられるかも....⁉

 いや、それは違うかも。当てられるのは、本当の「鍵の番人」だけ。きっと候補はザクザクいるだろう。その中のちょうど俺が、当てられる訳ない。

 俺はもう一度手紙を読み返してみる。当てられなかったら、殺される。当たったら、鍵の番人になれる。もし、候補がザクザクいたら、この人間の世界は原因不明の殺人事件だらけだ。だったら、候補は多くても2,3人。

 とりあえず俺は、漫画の中でよく読む、集中ってのをやってみた。

 なんとなくで壁まで歩き、ある膝下の鍵穴に鍵を差し込んでみる。結果は、吹っ飛び。また背中に激痛が走った。これで、鍵を試せるのはあと1回。当てられなければ、死。途端に、鼓動が速くなって、体が熱くなった。当てられなかったら、俺は死ぬ。この謎の場所で死ぬんだ。どうすればいい?いったいどうすれば....。

 そこで俺は、あの手紙の一文を思い出した。

 (もしかしたら....)

 俺はある壁に近づく。ベッドの向きからすると、俺の本棚があった壁。そこの一番下の鍵穴に、鍵を近づけていく。もし、あの手紙を書いたイルルって奴が意図して書いたなら、俺の予想はあっているだろう。でも、もし違ったら?

 俺は大きく深呼吸をして、鍵穴に鍵も差し込んでみる。

 鍵はすんなり入った。その瞬間、鍵が光り、手に焼けるような痛みを感じた。手を離すと、そのまま俺はどこか暗い所へ落ちていった。


 気づいたら、ベッドの上にいた。天井は洋風で、シャンデリアがぶら下がっていた。

 (俺の部屋じゃない....?)

 体を起こすと、隣に昔からよく頭に浮かぶあの少女が立っていた。

 「おはよう、辰巳。よく頑張ったね。鍵の番人になるための試験、見事合格よ。おめでとう」

 「へ?合格?俺が?」

 「ええ、そうよ」

 彼女、イルルの説明によると、ここは鍵の世界。この世にあるすべての鍵を守り、監視するための世界らしい。この世界に生まれた人はたった3人。その人たちの間で跡継ぎを作ることができなかったため、こうして1世紀に一度、人間の世界から1人、鍵の番人を選んでいるらしい。その鍵の番人は、全ての鍵の居場所を覚え、守るための主催者みたいなものらしい。

 そのことを彼女に説明され終わると、ある男の人が入ってきた。体格はいいが、かなりのおじいさんだった。白髪が目立っているが、背中はしゃんと伸びている。

 「おめでとう、辰巳君。君は今日から鍵の番人だ。でもその前に、どうしてあの鍵穴だと思ったのか、おしえてもらえるかな?」

 俺は一瞬迷った。ここであの手紙に隠された秘密を言うと、俺がズルをしたみたいになると思ったからだ。でも、正直に話すことにした。なんとなく、この人には真実を言わないといけない気がしたからだ。

 「あの手紙の内容からです」

 「手紙の内容?あれには特にヒントはなかったぞ」

 「俺はそうは思いません」俺はきっぱりと答える。「あの手紙の中に、『もし、3回鍵を差し込んでも鍵に合う鍵穴が見つけられなければ、あなたは殺されてしまいます。』という文がありました。しかし、あなたたちに人間は殺せない。そう判断すると、何故『殺されてしまいます』と書かれていたのか。それは、字数です」

 「字数?」男はとぼけて見せた。

 「はい。『殺されてしまいます』は、平仮名に直すとちょうど10文字。漢字にすると『十』。所謂クロスになります。クロスは、俺の本棚の後ろに、俺が小さいころ描いた落書きです。そのことから、壁は分かりました」

 「では、鍵穴は?」

 「それは、その前に書かれている、『もし、3回鍵を差し込んでも鍵に合う鍵穴が見つけられなければ、あなたは』から分かりました。これは、平仮名に直し、句点も入れると、ちょうど40文字。そこで気づいたんです。その壁にはよく見ると、鍵穴が一直線に並んでいるところがあったことに。しかも、それはちょうど40個でした。ということは、一番上の鍵穴か、一番下の鍵穴かに絞られる」

 「何故、一番下を選んだんだい?」

 「イルルの正体から分かりました」俺の一言に、イルルが動揺した気がした。「字の形、言葉遣い、そして『イルル』という名前から、すぐに分かりました。彼女は、俺の死んだ幼馴染、早苗だと。彼女は、死ぬまでずっと小説を書いてきました。その時のペンネームは『いるる』。そして、その彼女が書いて、自費出版した小説が、俺の本棚の一番下の段に入れてあったからです」

 俺は話し終えると、男のことを見た。男はただにこにこしていたが、なんとなくその顔が怒っているように見えたのだ。俺は、判決を待つ被告人のように、男の言葉を待った。

 すると、彼は大きく頷き始めた。

 「ふむふむ。ご苦労だった。そのことをあの状況で考えたのは素晴らしいことだ。でも、これだけでは其方のことは認められない。そこで、もう一つ質問をする。其方は、何故それに基づいた行動をしたのだ?かなり、信じられないし、こじ付けのような気もするが?」

 俺は少し考えてから答えた。

 「勘です」

 すると、男はワハワハ笑い始めた。変なことを言っただろうか?

 「よし!合格だ」

 「へ?今ので?」

 「鍵の番人にとって、自分の勘に従うのは大切なことなのだ。それだけ自分の考えに自信があるということになる。其方には、それがしっかりできているから、合格だ」

 その後は、俺の入学式みたいなものが始まった。服を選んだり、採寸をしたり、鍵の世界のことを学んだり、礼儀作法を身につけたり。ただただ、やることが盛りだくさんだった。

 この世界には、俺と早苗とクロス(あの男の名だ)とあと2人の番人がいた。早苗は番人ではないらしい。彼女は、死ぬ直前、クロスに拾われたらしい。「君の大切な辰巳を救ってみないか」と。

 50年たった今、それはただの笑い話でしかなかった。俺は、ずっと好きだった早苗とようやく両想いになり、結婚をした(もちろん、この世界には結婚というものはないため、それらしきもので終わったが)。子供は生めなかったが、2人で最後まで鍵の番人の仕事をやり遂げた。

 両親のことは気がかりだったが、次の番人が見つかれば変えられると聞いたため、安心した。鍵を守り、監視する仕事はとてつもなく面倒で、全然楽しくないが、何故かわくわくした。

 「おい、始まるぞ」

 同期の奴が声をかけてくる。

 そう。今日こそ、俺の跡継ぎが決まる。

 新しい鍵の番人の誕生だ!

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