第8話 宮田の遺書

『こんにちは。この遺書みたいなものを誰が読んでくれるのかは分かりませんが、一応挨拶はしておきます。ありがとう。これを読んでくれて。

 遺書ってどういうことを書けばいいのか分からなかったから、ちょっとネットとかで調べたら、お金のこととか継ぐ人とかのことを書いてるらしい。お金も継ぐ人も好きにしていいよ(笑)

 多分これを読む人は、僕の死んだ理由が知りたいんだろうな。僕は、ゲイです。男が好きな人です。

 隣のクラスの星野卓也のことが好きだった。告白をした。そしたら「気持ち悪い」って言われた。まあ、そうだよね。いきなり男に告られたらそう言うよね、普通。でも、そういった星野は苦しそうだった。どうしてだろう。もう、分からないけど。

 そのことを、バラされたんだよ。星野と同じクラスの友人、金子敬に。どうしてバラしたんだろう。それももう、分からない。そしたら、僕のことを気持ち悪いって言っていじめる人が現れた。金子にも一度、殴られたことがある。痛くて体中が絆創膏と湿布だらけになったけど、普通に学校に行った。どうしてかって?いじめに負けたような気分になるから。

 そして、もう学校に行かなかったら東雲悟に顔見せできない。あいつは、本当に苦しんでるんだ。病気のことだけじゃなく、それ以外のことでも苦しんでる。僕は、そんな彼を助けられない。どうしてだろう?分からない。

 たぶん、一番苦しみが深かったのは杉田有理だっただろう。1年ぐらいしか同じ学校に通えなかったけど、なんとなく、彼も苦しかったのだろうという気がする。あんなにお兄さんのことが好きで、犯罪者になっても大好きなはずなのに、どうして変わってしまったのだろう。分からない。

 謝りたいのは、弟だ。ごめん、義。辛い思いをさせたね。もし、本当に魂とか天国とかがあるのなら、ずっと義と一緒だ。お前だけは、僕の周りで変わらなかった。どうしてだろう。分からない。でも、嬉しいよ。

 結構長くなっちゃったけど、これを読んでくれてる人に一番伝えたいのは、僕は辛くて自殺したんじゃないってこと。じゃあ、どうしてかって。それは、僕が墓までちゃんと持っていくよ。いや、もう持ってった。正直、何度も飛び降りることを躊躇した。でも、何故かあいつらが背中を押したんだ。悪い意味じゃないよ?違うからね?親友の田中功なんて絶対優しいから、自分のせいだとか思ってる。でも、違うから。君たちは、良い意味で僕の背中を押してくれたんだ。

 自殺は悪いことだっていう人が多いけど、そうでもないと思う。僕にとって、自殺は訓練みたいなものなんだ。勇気をもらう訓練。最後にテストがある訓練。僕は、テストで満点を取ったんだ。君たちのおかげで。だから、すごく感謝してる。ありがとう。本当に、ありがとう。

 さようなら。』

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