第7話 宮田義
世界には、変わったり変わらなかったりするものが一つだけある。その他のものは、全て変わるものだと思う。
僕は、変わりたくない。
兄さんは、変わりたかっただろうか。
世界唯一のあのものは、あの瞬間何を思ったのだろうか。
僕には、兄さんがいた。
優しくて、朗らかで、弟思いの完璧な兄が。
でも、兄さんは自殺してしまった。
学校に、ゲイだっていじめられ、苦しくて自殺した。もちろん、それが真実なのかは分からない。もっと別の理由で身を投げ捨てたのかもしれない。
クラスの人たちが葬式に来ても、いじめっ子たちが両親のいなくて兄をも失った僕に頭を下げても、兄さんを殺した人たちに対しての怒りはおさまらなかった。
葬式に来なかったが、お線香は上げに来た人たちはこう言っていた。
「宮田はとてもいいやつでした。俺の最高の親友です。いじめられる理由なんてありませんでした。ゲイだからって言って自殺したも同然です。とても、悲しいです」
そう言ったのは、兄さんのクラスメイトの一人だ。兄さんの親友だという田中さんは、本当にとても悲しんでいた。
「実は、宮田がゲイだってバラしたのは俺なんです。今では本当に後悔しています。他の奴らは公開も反省もしませんけど、俺は、宮田のおかげで変われたんです。あいつは、最高の友人でした」
そう言ったのは、兄さんとは違うクラスの金子さんだ。友人だったが気の迷いで兄さんをいじめていたらしい。後悔しているといって彼の目に、嘘はなかった。
「僕は、宮田とメールと電話ぐらいのやり取りしかしてませんでしたけど、それだけでも宮田はむっちゃいい人なんだっていうのが分かりました。僕は宮田のおかげで今、学校にも通えてます。たぶん、僕は宮田にたくさんの勇気をもらったんです」
そう言ったのは、兄さんとメールでつながっていた東雲さんだ。心臓が悪くて病気やいろいろなことと戦って折れそうだったけど、兄さんのおかげで生まれ変われたらしい。
「俺は、宮田とはそんなに面識はなかったけど、あいつのこと、結構気にかけてたんです。自分のことよりも。ちょっとぐらい、親近感もあったと思います。だから今は、もっと宮田と話せばよかったなんて思ってます」
そう言ったのは、兄さんの前の学校の杉田さんだ。彼もいじめられていたらしいが、最近は反抗しているから少なくなってきているらしい。
結局、直接兄さんの死を悲しんでくれたのは、5人だけ。中でも、一番驚くことを言った人がいた。
「私は、宮田君のことが好きでした。でも、それを言う勇気がなくて、しかもひどいことも言ってしまって、私はすごく宮田君を傷つけたのだと思います。過ぎてしまったから、もうしょうがないですけど。もし、宮田君がもう少し生きててくれたなら、付き合えていたかもしれません。でも、そしたら私になれなかったんだと思います。見てわかる通り、私はジェンダーです。でも、今まではそれを隠してきました」
そう言ったのは、兄さんが好きだと話してくれていた星野さんだ。
彼女は、こう言った。
「たぶん、宮田君の死がなかったら、ここにいる全員、誰も変われなかったんだと思います」
兄さんは、人を変える力を持っていたのかもしれない。だから、兄さんも変わったり、変わらなかったりしていたんだと思う。彼と関わったすべての人が、変われている。皆、変わりたがっていたから。
僕はどうだろう。
変わりたくなかったから、変わらなかった。
僕はちゃんと、兄さんの弟になれてたかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます