第6話 杉田有理
世界は、変わらないものだらけだ。変わるものなんて存在しない。それに気づいていたわけでもないが、勝手にそう思い込んでいた。
本当にそれに気づいたのは兄が強盗をした時だった。
そして、変わらないものを嫌い始めたのは、あいつが死んだ時だった。
俺はOO校の2年生。1年生から上級したばかり。それでも、俺に対するいじめはなくならなかった。
「お前は強盗した兄さんのこと好きだもんな」
「兄ちゃん~、兄ちゃん~」
「お前の家族は犯罪者だもんな」
これらはもう、クラスの教訓だった。
(ま、とっくの昔に慣れたけど)
その日もいろいろなことを言われた。そして帰ろうとすると、同い年ぐらいの男子に声をかけられた。
「お前、OO校だよな」
「そうだけど何?急いでんだけど」
「宮田忠について訊きたいんだ。あいつ、OO校内でいじめられてたのって本当か?そして、それが理由でわざわざ隣県まで引っ越してきたっていうのも―」
「まず俺は宮田とちゃんと話したことない。いじめられてたけどな、ゲイって噂されて。でも、なんでそれをお前みたいなやつが訊くんだよ」
「....あいつが自殺したからだ」
そいつは田中と名乗った。宮田の親友らしい。俺は別に、宮田がゲイでいじめられてたなんて気にしなかった。俺もいじめられてたから、自分のことだけでも手いっぱいだった。
「で、自殺したから何?」
「何とかいうな。あいつは俺の、たった一人の大切な親友だったんだ。それなのに、俺のせいで....死んだかもしれない」
「あっそ」
俺は正直興味がなかった。宮田は俺と同じくいじめられてたけど、別に親近感を抱いたりはしなかった。というか、少しあいつが嫌いだった。
いじめられているときは頑固に耐え、それ以外の場所では、人目の少ない所で泣いている。
(そういえばあいつ、すげえ悲しそうに泣いてたな)
結局その田中とは、なぜか連絡先を交換して別れた。
宮田がゲイだと知ったとき、実は喜んでいた。これで犯罪者の兄を持つ俺ではなく、あいつをいじめるようになる。そう思ったからだ。
でも、違った。宮田も、俺も、いじめた。いじめっ子らはめげずに暴言を吐き、暴力をふるった。
たぶん、俺は宮田を少しかわいそうだと思っていた。ゲイだということだけでいじめられていたからだ。女が男を、男が女を好きなように、あいつは男が好きなのに、どうしていじめられるのか。
今思えば、俺は自分のことよりも、宮田のことを気にかけていた。
たぶん俺は、あの宮田が自殺をしたと聞いた瞬間、悔しくなったのだろう。宮田の代わりに、あの心優しい男子の代わりに、俺が逝けば良かったのに、と思った。
そうだ。
この世界には、変わらないものしかない。
じゃあ、俺も変わらないんだ。昔の、兄ちゃん兄ちゃん言って兄貴を追いかけて、繊細で他人への気遣いができる、あの頃の俺と、俺は何一つ違わないんだ。
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