第5話 東雲悟

 世界には、ずっと変わるものがある。でも、ずっと変わらないものもある。見分け方とか、違いとかは分からない。

 僕はバカだから。

 人生で何度「バカ」「アホ」「マヌケ」などの言葉をぶつけられただろうか。

 それは、変わらないものの一つだった。


 1年生の2学期。夏休み明けに転校した。もとは女子校だったここに転校してきた人は、意外といた。7人。全員女子。1人。男。

 「東雲悟です。よろしくお願いします」

 (まあ、今日でクラスメイトと会うのは、最初で最後だけど)

 席に着いてHRも終わると、人だかりができた。嫌々応えていく。1限目の放課はもう誰も来なかった。

 昼休み。1人、屋上でお弁当を食べていると、男子2人組がやってきた。2人とも同じクラス。まだ、話していない。

 「一緒に昼食わねえ?」

 丸坊主の田中とかいうやつが訊く。

 「いいよ」

 正直言うと嫌だったが、断ると色々面倒だ。

 「俺は田中功。で、こいつは親友の宮田」

 「よろしく」

 宮田は控えめな性格らしい。ぺこりと頭を下げて、優しく笑いかけてくる。

 「東雲君はどこ出身?」

 「XX校」

 「あ、意外と近いじゃん。俺、△△校」

 「俺はOO校」

 「一人県がいいるし」

 この2人は、少し話しやすかった。田中はフレンドリーだし、会話をリードしてくれる。宮田は物知りだし、ノリがいい。

 早速2人とメール交換をした。

 「また明日」「また明日」

 僕は田中と宮田に、同じ帰り際の言葉をかけられなかった。

 あの日からもう1年が経つ。

 僕は今、宮田の葬式にいる。

 まさか、小さいころから心臓が弱くて、ずっと入院ばかりの学校にも行けない僕よりも先に、あの明るくて優しい、いつも変わらない宮田が逝くなんて。

 宮田はゲイだった。いじめられてもいた。告った相手に気持ち悪いと言われてしまった。それはすべて、宮田が僕にメールした内容だから知っている。

 でも、自殺するなんてきいてない。

 宮田。お前は自分の命をそんな短いところで切っちまうぐらい、苦しんでいたのか?


 世界には、変わらないものと変わるものがある。見分け方や違いは、今でも分からない。でも、たぶん宮田みたいな人は、変わらないものなのだろう。

 僕は病気だけでなく、学習や人間関係とも戦ってきた。それはものすっごく辛かったけど、それでも戦い続けた。

 宮田が戦い続けられなかった理由は何だろう?

 バカな僕でも、何か助けられなかったか?何か言ってあがられなかったか?死ぬなって。生きろって。

 たぶん、そんな言葉は、ずっと変わらない宮田には、通用しなかっただろう。

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