第4話 金子敬

  世界には、変わるものと、変わらないものとがある。俺の考える違いは、良いか、悪いか。良いものだったら変わらず、悪いものだったら変わる。

 俺は、悪いものだ。だから、いつも変わる。

 あいつは、良いものだった。だから、いつも変わらなかった。


 宮田がゲイだっていう噂は、すぐに広まった。

 たぶん、俺も気付いていたのだろう。あの転校生、星野が最初に学校へ来た日、あいつと男子トイレで会った。顔を真っ赤にしたあいつは、乙女みたいに言った。

 「恋、したかも」

 俺はずっと気付いていた。星野だけでなく、いつも宮田は男子に迫られると、赤くなっていたから。俺でもそうだ。

 俺は昔から良いものが嫌いだ。ずっと変わらないなんて、気持ち悪い。反吐が出る。

 だから、宮田が星野に告ったことも、宮田がゲイだってことも、俺がバラした。

 でも、やっぱりあいつは変わらなかった。

 「今日も水浸しだな」

 「ああ。困っちまうよ」

 ちょっと嫌味を込めて言っても、あいつはヘラヘラ笑う。

 だから、言ってやった。

 「お前それ、いじめられてんだろ?」

 「....え?」

 「いじめられてる原因、俺がバラしたの」

 宮田は固まった。想像もしてなかった、という顔をしてただただ驚いていた。

 でも―。

 「そっか。金子だったのか。ちょっと安心」

 宮田はまた笑った。

 (いや、そこ笑うところじゃないだろ。安心って何?)

 「何それ」

 俺はいつの間にか宮田を殴っていた。宮田は簡単に床に転がる。俺は無意識に宮田の腹を蹴りまくった。宮田はずっと呻いているだけ。

 「良いものぶってんじゃねえよ」

 俺は良いものが嫌いだ。ずっと変わらないものが嫌いだ。宮田は、俺がバラした犯人だと知っても、何も言わない。変な言葉を発して、いつもと変わらずヘラヘラ笑った。俺が暴力をふるっても、反撃してこない。

 きもちわるい。

 翌日、宮田は学校を休んだ。

 でも、その次の日は来て。体中に絆創膏やら湿布やらを貼り付けて、いつもみたいに。

 いつもと、変わらず。

 数週間後、宮田が死んだ。

 身を投げ捨てて、自殺した。

 俺のせい、なのか?


 俺はあいつが死んでから、この世には変わるものしかないのかもしれない、と思い始めた。あいつ程変わらなくて、良いものなんて、見つけられなかった。

 あいつが自殺した理由は何だったのだろう。

 星野に気持ち悪いと言われたことか?

 自分がゲイだってことがバレたことか?

 俺が友達を裏切っていじめたことか?

 葬式なんかには出ずに、俺は一人宮田のために泣いた。これ程良いものでも、嫌いになれなかった。宮田よりも、自分の方が嫌いだ。反吐が出る。

 これ程、変わるものを嫌い、変わらないものを恋しく思ったのは、初めてだった。

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