第3話 田中功

 世界には、変わるものしかない。例えば、季節。例えば、恋愛。この世の全てのものは、変わる。俺だって、変わる。

 でも俺は、世界唯一の変わらないものを見つけた。 

 俺を支えた、たった一人の親友だった。


 ある日、宮田はスリッパで教室に入った。

 「あーあ。上靴忘れたのかよ」

 「ああ、忘れた」

 宮田は苦笑いした。

 昼放課になると、宮田はびしょ濡れになった。

 「おいおい。宮田、何やってんだよ」

 「水やりしてたら濡れた」

 宮田は派手に笑った。

 帰る時間になると、宮田の顔に痣ができた。

 「ど、どうしたんだよ宮田!」

 「転んでぶつけた」

 宮田は悲しそうに笑った。

 俺はこの頃、宮田はドジだなあ、ぐらいにしか思ってなかった。でも、その”ドジ”は、どんどんエスカレートしていった。

 「ちょっ、お前、顔....!」

 「ああ、風呂場で転んで....」

 「違うだろ」

 俺のちょっと大きい一声に、宮田はびくっと震える。宮田の顔は痣だらけだった。青いのも、赤いのも。

 「大丈夫、だから」

 宮田は泣きそうだった。

 でも、何も言えない。

 昔にも同じことがあった。友達がいじめられて、俺は細かくすべてを聞き出した。何をされ、何を理由にされ。俺はそれに言われた。

 「お前、人のことに首突っ込みすぎ。ウザイ」

 親切でしようとしていたのに、迷惑になっていた。友達のことを思ってやったのに、怒られた。

 首、突っ込まないように、しないと。また、嫌われる。

 数週間後、全てが分かった。宮田はゲイだった。隣のクラスの星野に告ったらしい。それを誰かがバラして、いじめられていたのだ。

 でも、分かった頃には遅かった。

 宮田は、自殺した。

 家のベランダから落ちたらしい。

 俺が、もっと宮田を問い詰めて、何か訊き出せていたら、止めに入れていたら、宮田は自殺しなかったかもしれない。そう思うと、すごく泣けた。

 宮田とは家が近くて、小学校から友達だった。優しくて、朗らかで、ちょっと口は悪かったし、ときどき不愛想だったけど、世界一の親友だった。

 そんな人が死んだ。

 自殺しようと思ったきっかけは何だったのだろう。星野に断られたことか?いじめられていたことか?俺が気づかなかったことか?助けなかったことか?

 俺が、宮田を、殺したのか....?


 世界には、変わるものしかない。多分それらは、変わりたくないけど、変わっている。それで、苦しんでいる。自殺をしてしまった宮田みたいに。

 誰にも、苦しんでほしくない。

 誰にも、変わってほしくない。

 宮田みたいな、俺みたいな、全ての人を、これ以上増やしたくない。皆に、幸せになってほしい。

 俺は、泣いた。この世の全ての宮田みたいなやつと、この世の全ての俺みたいなやつと、この世の全ての星野みたいなやつと、この世の全ての宮田をいじめたやつのために。

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