第2話 星野卓也

 世界には、変わらないものしかない。しかし、一つだけ変わるものがある。それは僕だ。

 見た目とは違う、が最も当てはまる人物。

 それが認識できたのは、8歳のころだった。

 

 「星野卓也です。バレー部です。よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げて、新しいクラスメイトに自己紹介をする。それに対して、男女ともに「むっちゃイケメン」、「ヤバッ」ぐらいの反応しかしない。人生で何度言われたことか。

 HRが終わると、僕の周りは人しかいなくなった。違うクラスからも来て、とにかくうるさい。

 どうにか乗り切って、1限目も終わらせると、同じクラスの体育会系の男子、金子が近づいてきた。

 「大人気だな」

 「慣れてる」

 「これだからイケメンは。嫌味か?」

 「違うよ」

 「ていうかさ、」金子はいきなりすごい顔になる。「お前、OO校出身だよな。そこでいじめられてたって、本当?」

 僕は固まる。

 何故知ってる?わざわざ隣県まで引っ越してきたのに。しかも、どうして金子が?ちゃんと「僕」って言えてたよな?

 「その顔でいじめられるんだ」

 「....あの、それは」

 「別に責めたりしてないから。お前の勝手だし。訊いてるだけ。友達にOO校出身がいて、お前の名前だしたら、お前がいじめられてたこと聞いただけだから」

 「そ、そう」

 僕はジェンダーだ。外見は男、内見は女。本当は、スカートがはきたいし、可愛いものを身に着けたいし、「私」と言いたい。でも、気持ち悪がられる。いじめられる。認めてくれない。誰も―。

 「色々、あったんだよ」

 「そうか」

 金子はそのまま去っていった。誰も私のことを訊きはしなかった。良かった。そのまま僕を男だと思っていてくれ。お願いだから。

 その半年後、隣のクラスの宮田に告られた。男に告られた。外見は男、宮田は男の僕が好きだ。内見は女、私は男の宮田が好きだ。

 「きもちわるい」

 そういった時の宮田の顔は忘れられない。宮田は結構、私の中ではかっこいい方だ。その顔が、ぐしゃりと音をたてそうな程歪んだ。泣きそうな、叫びだしそうな顔になった。

 僕がそうさせた。

 僕が、私が、一番泣きたかった。

 僕が、私が、一番叫びたかった。

 その日、私は泣いた。宮田がかわいそうだった。私なんか好きにならなければよかったのに。僕なんか好きにならなければよかったのに。

 翌日、宮田の上靴が消えた。宮田はびしょ濡れになった。顔に痣ができた。

 私のことじゃなくて、宮田のことがバレたのだ。

 ごめん、宮田。私が勇気を出して、全部話せばよかった。私が、あなたを好きなきもち、我慢しなければよかった。付き合えばよかった。私が好きな、君と。

 何週間か後、宮田が自殺した。誰も泣かなかった。私だけが、大泣きした。

 

 世界には、変わらないものしかない。変わらないものは、私だけ。僕は、女だ。宮田が好きだった。言えなかった。殺してしまった。私が。

 僕は、私に、変わりたい。変わって、皆に認めてほしい。だって、皆私が人間みたいじゃない風に接するんだもん。私はただ、宮田を好きでいたかっただけなのに。私はただ、宮田に受け止めてもらいたかっただけなのに。

 でも、世界には、変わらないものしか、ない。

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