変わるものと、変わらないもの

@tukimotokiseki

第1話 宮田忠

 世界には、いつも変わらないものと、いつも変わるものとがある。見分け方は簡単。人を好きになったことがあるか、ないか。たったそれだけだ。人を好きになると、人は変わる。人を好きになったことがないと、人は変わらない。

 俺は、いつも変わるものだった。


 それはほんの1日前のこと。隣のクラスに転校生が来た。

 「おい、男だってよ。しかも、イケメン」

 「そう」

 うちの学校は、転校生がよく来る。俺がこの学校で学んでもう2年が経つが、その間に8人は来たと思う。そのうち7人が女子。うちの学校、もとは女子高だったから、女子がたくさんいる。その女子ら目当てで入学してきたらしいのが、さっき話しかけてきた田中だ。一言で紹介すると、うるさい奴。

 「くっそー!女子奪われるじゃねえか!」

 「そう」

 「お前愛想0だな」

 「そう」

 俺は今勉強をしている。こいつに邪魔されたくない。学校の授業についていけてないなんて、絶対に言えない。

 「よし、見に行くぞ」

 「はあ?ちょっ、放せよ!」

 そのまま俺は隣のクラスまで引っ張られていった。この馬鹿力め。

 「うわ、マジのイケメンじゃん。....宮田?どうした?」

 俺は、そいつを見た瞬間、固まった。整った顔、色白な肌、艶のある黒髪、高身長。そいつはすべてが完璧で。

 恋をしないほうがおかしかった。

 「宮田?」

 「悪い、便所」

 俺は近くにあった男子トイレに駆け込む。そのまま手洗い場の蛇口をひねり、顔に冷たい水をかけまくった。鏡を見ると、俺の顔は真っ赤になっていた。

 「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!」

 「うるせーぞ」

 いつの間にかトイレの個室から出てきていた、隣のクラスの金子にびくっと跳び上がる。

 「恋でもしたか」

 恋?俺が?男に?そんなこと....。

 「そうかもしれない」

 「そうかそうか!お前もついに恋したか」

 「その言い方ムカつく」

 「はいよ。今度その娘紹介しろよ」

 そのまま金子は、俺の初恋の人がいる教室に戻っていった。

 (俺も戻ろう。田中が心配する)

 トイレのドアを開けると、田中がぶつかってきた。人相を変えてすごい勢いで突進してきたから、クソ痛い。

 「たな―」

 「大丈夫か、宮田!お前熱あるんじゃねえの!って、なんで濡れてんの!?」

 「田中うるさい。大丈夫だから」

 俺が落ち着いているのを見て、田中も少し落ち着いた。もちろん、俺の心臓はさっきからバクバク田中よりもうるさいが、俺は感情が顔に出ないタイプだから乗り切った。

 「で、どうしたんだよ?顔真っ赤だったからビビったぞ」 

 「ああ、ちょっと朝から体調が悪くてな。でも、もう大丈夫だから」

 「良かった!」

 俺たちはそのまま教室に戻って、1限目を終わらせた。その後は、田中や他のクラスメイト達にあのイケメン転校生のことを訊いた。名は、星野卓也。誕生日は1月17日。A型。身長は188センチ。バレー部。彼女は、いない。誰かと付き合ったことも、ない。

 この時の俺は、絶好調。

 半年後、勇気をもって好きだと伝えたら「気持ち悪い」と言われ。

 俺がゲイだってことと、星野に告ったことがバレて。

 毎日毎日いじめを受けるようになって。

 両親に認めてもらえず、生きることが嫌になってきて。

 最終的に自殺することになるなんて。

 考えてもいなかった。


 この時、俺は変わった。人を好きになって、変わった。

 でも、この世界には変わらないものがある。LGBTの差別。変わってほしいけど、変わらないもの。努力してるなんて言って、実は何も変わってない。

 そんなことをする人達はきっと、人を本気で好きになったことがないのだろう。もし、愛することの幸せと、美しさと、儚さを知っていたなら、そんなことはしないはず。

 俺は、死ぬ瞬間まで、その人たちを憐れんでいた。


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