19.不必要

「猫宮、ちょっといいか」


 雨降りの昼休み、一条先輩が訪ねてきた。


 先輩とは雨の日によく会う気がする。


「どうしました?」

「前に言ってた部活の記念品の話なんだが、一緒に買いに行ってくれないかと思って」


 あぁ、確かに言っていた。


「それならマネージャーのさやかちゃんの方が適任じゃないんですか?」

「いや、それが毎日毎日部活で行く暇がなく。雨でもみんな自主練するからマネージャーもそれに付き合うらしく。光に頼むのもなんだか嫌で」


 一条先輩にとっても光先輩はそういう扱いなんだ。


「あぁ、なるほど」

「そこで頼めそうな人で浮かんだのが猫宮なんだ」

「そういうことなら、私でよければ大丈夫ですよ」

「良かった! じゃあ放課後よろしく頼む」


 そう言って先輩は去っていった。



 放課後。


 一条先輩を探しに行こうとすると、先輩の方から来てくれた。


「すまん、待たせたな。行こうか」


 何処に行くのか分からないまま、ただ先輩についていく。


 学校から十分程歩いた先にある商店街に私達は向かっていたようで、その中のスポーツショップに入っていった。


「前、確かタオルとかリストバンドが良いんじゃないかって言ってたな」


 棚を見ながらたまに手に取って見たりする。


「どっちだ……」

「よく使う方が良さそうですけど」

「そうだよな、使い勝手の良い方。タオルか、タオルだな。ん、種類があるな」


 正方形の物や長い物、手触りなど確認するも迷っている様子。


「首からかけたりとかするんですか?」

「あぁ、俺はするな。そうか、じゃあ長い方が使いやすいか。色もあるな」

「誰のか分かりやすく違う色とか?」


 そういう考えもあるのか、と小声で言っている。


「よし、買ってくる」


 先輩は何個かを手に取り、会計へと向かった。


 シューズやラケット、ボールを見ていたらすぐに戻ってきた。

 

 二人で店を出たところで、用事は終わったようだ。


「今日はありがとう、助かった。俺は学校に戻って練習してくる」


 そう言って、私の返事も聞かぬまま行ってしまった。


 忙しいんだなぁ。


 それにしても、今日本当に私必要だったかな。



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