6.乱すは恥

 朝のホームルーム後に入部届を受け取った二人と一緒に、授業が始まるまでの時間に書き上げた。


 入部届や入会届と言っても、どの部や委員会かとクラス名前を書くだけの物で、二枚とも入部か入会の文字が違うだけの簡素なものだった。


 もっと覚悟を持たせるような内容なのかと思っていた。あまり重たすぎる届け出というのもやりにくいとは思うから、その点簡単でよかった。


 先生の元へ用紙を持って行く時間はなく、みんな机にしまうことになった。焦って出したところで何も変わらない。委員会に入る決心が鈍る? 多分大丈夫だろう。


 授業を受けてその次の休み時間に出してこよう。


 五十分という時間がなんとなく長く感じた。それは私以外も同じだったようだ。


「なんか、これを出すだけで陸上部に入れると思うとドキドキするなぁ」

「分かるよ。うちも初めての体験、マネージャー、と思うと、ドキドキする。でも、わくわくもするんだよね」

「すっごい、楽しみだなぁ」


 南ちゃんもさやかちゃんも、これから始まる部活にドキドキしているんだ。私も楽しみだ。委員会はあまり忙しそうなイメージはなく、ゆったりとした時間を過ごせそうな気がする。担当の泉先生も優しそうでよかった。


「あっ。二人とも、早く出しに行って着替えないと体育間に合わないよ!」


 うわぁ、と言いながら三人でジャージが入ったバッグを持ち職員室に向かった。


 先生に届を出すと「決めてくれたか」とうんうん頷いていた。どうやら部活や委員会に積極的な生徒が少ないようだ。喜んでくれるのはいいけれど、あまり期待はしないでほしい。


 その後、急いで三人で体育館に向かう。事前に着替える場所を伝えられていたとはいえ、扉を開ける前は本当にここでいいのかという疑問が浮かんでいた。なんせ、ステージ横の二階で更衣室という名前の場所ではなかったから。


 それでも中に入ると、もう着替え始めている子もいて安心した。想像していた暗くてじめじめした更衣室とは違い窓があって明るかった。


 みんな急いで着替えてステージ前をうろうろする。どう待っていればいいか分からない。隣のクラスと合同であるため、ちょっと騒がしい。


 授業開始のチャイムが鳴る前に、ジャージ姿の先生がやってきた。まだ始まっていないのに女子達は集まってきた。男子達はまだ先生が来ていないらしく、飛び回って遊んでいる。


「おぉ、流石新入生。気合いが違うな!」


 なんとなく暑苦しそうな先生である。にこにこしているが、集まったことに対しての満足感であるようだ。


 そして長針が真上に向いた。


「よーし、体育始めるぞー。まずは俺の自己紹介だな。澤田だ、陸上部の顧問をしている。授業で陸上競技をやるのが楽しみだな!」


 今から嫌になってきた。


「じゃあ、そろそろ始めるか。今日は集団行動だ。全員出席番号順に並べ」


 それぞれ一列に並んだ後、横を向き体育館の端まで移動する。


「よし、じゃあそのまま並んで列を乱さず歩け。一、二、一、二」


 私達は隣の人を横目に見ながら歩く。それでも、少し列はずれてくる。


「ほらそこ、曲がってる! 列を乱すのは集団行動の恥だと思え!」


 どうしよう、気持ちがついていかない……。体育ってこんなに辛かったっけ。これを繰り返すこと数十回。みんな疲れてきた。そうなると、列は乱れるわけで。


「恥だ、恥!」


 これからの体育心配になってきた。



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