4.出会いの一歩前


 朝から体育館に集まっている。今日はこれから部活紹介がある。もしかしたら、興味を持てて体験してみたい部活があるかもしれない。でも運動部は体力的に難しそうだなぁ。


 ザワザワしていた体育館が静まる。ステージに一人マイクを持って上がってきた。


「皆さん、おはようございます。生徒会長の松本です。本日は部活紹介をさせていただきたいと思います。皆さんの部活選びの参考になれば幸いです」


 はきはきした感じの黒髪の好青年である。こういう人じゃないと生徒会長にはなれないんだろうなぁ。


「司会は生徒会がさせていただきます。よろしくお願いいたします。それでは始まります」


 会長がはけていく。ステージから降りたところで、別の声が響く。


「それでは始めさせていただきます。まずは文化部です」


 吹奏楽部や演劇部が発表、実際に演奏や劇を見せてくれた。他にも文芸部や美術部などが次々と紹介された。


 うーん、面白そうではあるけどセンスがない私には難しそうだ。初心者、未経験歓迎とは言っているけれどやっていく自信がない。


「運動部の発表に移ります」


 野球、サッカー、バレー、弓道など紹介されていく。色々あるんだなぁ。


 中でも一際目立っていたのが陸上部だった。濃いグレーに黒のメッシュのやや短髪の男子生徒が数人の生徒と一緒に壇上に上がる。足の筋肉がすごい。高校生ってこんなにすごいんだ。実際の練習の様子を映像で流したり、大会のことも話してくれた。


 南ちゃんが入るのはこの部なんだ。ずっと、すごいなぁという感想ばかりである。


 こうして部活紹介の集会が終わった。教室に戻っても先生はすぐは来ず、生徒達は

各々話している。


「うち、陸上部気になるなぁ」


 そう言うさやかちゃん。発表を見て興味を持ったみたい。


「でもさ、スポーツはちょっと厳しいわ。見に行くくらいにしようかなと」

「さやかはちょっと体験してみればいいじゃん。駄目なら駄目で仕方ないけど、やってみないともったいなくない?」

「運動神経抜群な南に言われると、そうかもと思う一方いやぁみたいな気持ちにもなるわ」

「なんだそれ、まぁうちと一緒に行ってみようよ。空も行こうな」


 急に話を振られる私。全く予想していなかった。


「え、私も? 入る気全然ないのにいいのかなぁ」

「物は試しにさ」

「ふふっ、応援してるよ、空ちゃん」


 なつかちゃんは自分は行かないと遠回しに言っている。ズルい。でもまぁ、ピアノやってて授業でもないのに怪我したら大変だもんなぁ。


「はーい、席着いてー」


 先生が戻ってきた。全員がのそのそと席に戻る。


「では、残りの時間内に委員会の説明をします。絶対クラスに一人必要なわけだはなく、自己判断だが、内申には関わってくるところだからよく考えるように」


 風紀委員や図書委員など説明があり、生徒会についても説明を受けた。


 委員会はちょっと興味がある。特に図書委員、読みたい本を学校に置くことが出来

るのではないかと思っている。色んな人と出会うにはもってこいの活動だろう。


「じゃあ、生徒会に興味ある人はいるか?」


 初めは誰も手を上げなかったが、ゆっくりと上げたのは間宮君、。


「お、じゃああとでもっと詳しく話をしよう。実際に活動を見に行くこともできるからな」


 次は風紀委員と次々と聞かれるが誰も手を上げない。


「最後に図書委員はどうだ?」


 またしても誰も反応しない。うーん、とりあえず興味はあるし話を聞くだけでもいいかな。


 私はゆっくりと手を上げる。


「お、いたか、じゃあ放課後図書室に行ってみろ。話はしておくから」


 あれ、図書委員は先生が詳しい説明してくれない? ということは、上級生と突然話さなきゃいけないのか。ちょっと嫌だなぁ。


 こうして放課後までそれのことばかり考えて過ごすことになった。




 放課後になった。


「くぅちゃん、南が陸上部見に行こうってさ」

「あぁ、ごめん。まず図書室行かなきゃいけなくて……」

「そっか、図書委員のことだっけ? じゃあ、今日はやめておくかなぁ。教室で待ってるからさ、一緒に帰ろう」

「うん、分かった。行ってくるね」


 こうして私は一人で図書室に向かう。興味があるとは言ったものの、変な先輩とか先生とかいたら嫌だなぁ。


 担任の先生によると、図書室の前で誰か待たせておくということらしい。その人が説明とかしてくれるってことかな。どうか普通の人であってほしい。

 

 そして私のこの願いは別の意味で叶わないのである。


 図書室の前に一人立っている。制服ではない。先生だろう。濃いグレーの髪が目についた。もしかして……。


 その人物はこちらに気付いて話しかけてきた。


「君が見学の子かな? よかった、来てくれて」


 普通の人ではなかった。


「泉氷です。図書委員の担当で、一年生の副担任もしています」


 あの人気高い泉先生だとは思わなかった。


「あ、えっと、一年の猫宮空です」

「では、早速説明していきますね」


 図書委員は、図書整理や貸し出しの当番などがあるとのこと。教室で聞いた通りだ。


「あとは、そうですね。自分の好きな本を仕入れることが出来るかもしれませんね」


 ズルいでしょう? と笑う。ズルいのはこの先生だと思う。


「読書週間っていうものがあって、おすすめの本を紹介するということもありますね。他に変わったことはないかなぁ」

「そうですか、分かりました。ありがとうございます」

「もし入ってくれるってことになったら、この紙に書いて担任の先生に渡してください」

 くれたのは、委員会入会書。なるほど、そうやって入るのか。


「ではこれで、前向きに考えてみてくださいね」


 そう笑顔で言い、図書室を去っていった。


 ちょっとだけ図書室見て回ろうかな。そう思い、一周する。窓際のカウンターで頬杖をついて寝ている男子生徒がいる。顔は髪に隠れて見えない。艶がある綺麗な黒髪の人だった。一年生ではないようだ。なんでこんなところで寝ているんだろう。日が当たって暖かそうだし、寝てしまうのも分からなくはないが。


 とりあえず見て回ったし、教室にいるさやかちゃんと合流して帰ろうっと。



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