3.始まりは今日


 今日から授業が始まる。教科書とノートをスクールバッグに詰めて私は学校に向かった。ちょっとわくわくする。電車に乗って行くなんてなんだか不思議な気持ちだ。これからそうなのだから、慣れていかないと。でもこの満員電車って慣れるものなんだろうか。



「くぅちゃん、うちら押し潰されそうじゃない?」


 一緒にいたさやかちゃんはそう言った。


「本当にね。これが毎日って思うともう嫌になってきたよ」


 次から次へと乗ってくる人々。降りる人はほぼいない。


「早く、着け……」


 ぐったりしているさやかちゃん。分かるよ。


 数十分と乗っているとやっと最寄り駅に着いた。もう疲れ切っている私達は改札を出る。そこには自分と同じ制服を着た人達がたくさんいた。さっきまで全然見かけなかったのに、そうかこんなにいるのか。


 勝手にこの満員電車というものを乗り越えた同志と思いながら学校に向かう。


「着いた」


 入学式の時とは違い、家からの道のりがこんなにも遠いとは。

 

 それぞれ指定された下駄箱から上靴を出し履き替える。ぴかぴかの靴だ。広い廊下を歩き教室へ。中に入ると賑わっている。もうみんな仲良くなっているようだ。波に乗り遅れた気がする。


「おはよう」


 隣の席のなつかちゃんが声をかけてくれた。嬉しい。


「おはよう」

「今日から授業が始まるからなんかドキドキするね。忘れ物してないか不安になっちゃった」

「あっ、そうだね。私もなんか心配になってきちゃった」


 二人でふふっと笑い合う。新生活、早速良いことあった。そこにさやかちゃんも加わって楽しい時間を過ごせた。


 あっという間に先生が来て、朝のホームルームが始まる。今日から授業が始まるからしっかりやるように、だそうだ。


 気を引き締め、さぁ授業を、そう思っていたが一時間目は集会だったことを忘れていた。出席番号順に並び体育館へ。


 何が行われるのかと思ったが、担任の先生の挨拶と副担任の発表だった。副担任の挨拶で別のクラスの先生の時、女の子達はざわついた。かっこいい人だった。爽やかな感じ。濃いめのグレーの髪に黒縁の眼鏡。すらっとした長い足。確かにこれは目を引く。同じクラスの子が「別のクラスかぁ」と落胆している。


 その先生は泉ひょうというらしい。泉先生か、他の子との話題作りに覚えておこう。名前とは正反対で柔らかい物腰で、絶対これからもキャーキャー言われるんだろうなぁ。


 挨拶も終わり、これからの行事など年間の流れも聞いて集会が終わった。


 教室に戻り、各々話し出す。


「泉先生だってぇ」

「いいよねぇ」

「私、泉先生のクラスが良かったぁ」


 女の子達は口々にそう言った。


「空ちゃん、空ちゃん。泉先生すごい人気だね」


 そう話しかけてくれたなつかちゃん。騒がれるのも大変そうだねと話をした。そのあとすぐに担任の先生が来て、残り時間を自己紹介の時間とした。


 陸上部に入るんだと宣言した女の子、おっとりとした眼鏡をかけた男の子など話してみたい子がたくさんいた。入学式の日に目立っていた男の子と眼鏡の男の子は知り合いみたいだ。意外な組み合わせ。


 自己紹介したのもあって、次の休み時間はさっきより騒がしかった。私も何人かと話すことが出来た。


「うちは絶対陸上部に入って活躍するんだ。自分の限界を超えてみせる」


 陸上部に入るそう言ったのが、南ちゃん。小学生の時から陸上競技をやっている子だ。体育の時間が楽しみだ。教えてもらおう。


 元気な南ちゃんに話しかけに来た目立っていた男の子が笠原君。


「俺はサッカー部に入って活躍して可愛い子にモテるんだ」


 こんなことを言っているけど、笠原君も小学生の時からサッカーをやっているらしい。サッカーに対しては真面目みたい。


 笠原君と幼馴染の眼鏡をかけた男の子が間宮君。


「僕は二人みたいにずっとやってることとかはないんだけど、生徒会は憧れてるなぁ。僕なんかに務まるようには思えないんだけどね」


 さやかちゃんとなつかちゃんがこう続けた。


「うちはまだ何やりたいか決まってないなぁ。でも部活はやりたいかな。とりあえず、明日の部活紹介を見てから考えようかなとは思ってるんだけどね」

「私は部活とか委員会とかは考えてないんだよね。ピアノを習ってるからピアノに集中しようかなって」


 みんな何かしらやりたいこととかあるんだ。やりたい部活はないしなぁ。委員会はちょっと考えちゃう。誰もやる人がいなかったらやろうかなぐらい。そうだなぁ、私は色んな人と出会うを目標にしようかな? それならやっぱり部活とか委員会はやったほうがいいよね。


 休み時間はあっという間に過ぎていった。これから色んな教科が始まると思っていたけど、授業じゃなくまた自己紹介。あとはどう授業を進めていくか、テストのことなどの説明だった。折角、気合いを入れていたのに。

 こうして始まりの一日が終わっていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る