無自覚チートな主人公に、いい加減気付けよとムカついたので「ざまあ」しようと思う。

神宮瞬

無自覚チートな主人公に、いい加減気付けよとムカついたので「ざまあ」しようと思う。



 最近、とてもムカついていることがある。俺のパーティーメンバーのことだ。


 そいつの名前はライト。なんとも主人公臭のする名前だが、俺はライトと二人でパーティーを組んで、冒険者というものをしている。

 冒険者というのは冒険者ギルドに所属し、依頼されたクエストをこなす仕事だ。依頼は魔物を討伐するようなものが多い。まあハイファンタジーものによくある設定と考えてほしい。


 俺はライトと組んでもうすぐ一月が経つのだが、分かったことがある。

 それは、ライトが無自覚にチートであるということだ。言い換えると自分が最強にも関わらず、何故かそれを自覚していない。

 最初は「すげぇ!」と思っていたもんだが、今では「いい加減、気づけよ!」だ。


 それに加え、主人公気質なのか、トラブルを引き寄せてその度にハーレムを増やす、いわゆるハーレム主人公だ。厄介なことに女の子からの好意にも気付いておらず、鈍感系主人公でもある。爆発しろ。

 まだ続くぞ。主人公が無自覚チートなのは父親が剣聖であり、自分が普通だと思い込まされて育てられていたからだということだ。


 要するにライトは、設定ましまし、なろう主人公の究極系である「無自覚チート鈍感ハーレム主人公(親強い)」なのだ!


 一歩譲って、鈍感チーレムであることはまだいい。そりゃ俺だって女の子にモテたり、かっこよく活躍したりしたいが、ライトは俺の最初のパーティーメンバーでそこそこの友情がある。それに依頼をこなした報酬の恩恵だってある。


 しかし! しかしだ。

 どうしても許せないことがある。それは無自覚チートであるということだ!


 無自覚であるということだけは執拗に俺をムカつかせてくる!


 ああ、むかつくぅ! なんで自分が強いって気が付かないんだよ! どういう神経してんだよ! 頭悪すぎんだよ!  


 ……やってらんねぇ。(諦め)



 最初に俺がライトが無自覚チートだと気づいてから、ライトに自分は強いと気づかせるために努力してきたつもりだ。


 例えばライトがドラゴンをあっという間に倒したときには、「普通の人はそんな簡単に倒せないよ」と言った。しかしライトは「そう言って僕を持ち上げないでよ。これは一番弱いドラゴンだから皆できるって」と返してきた。

 ドラゴンは見つけたら逃げるが常識です。


 俺がどうしても習得できない魔法をライトは一発で習得した。ライトは剣士であるにも関わらずに。「お前やっぱすげえよ!」と言ったら「俺君だってこのくらいすぐ出来るようになるよ」と返された。

 いや、出来ねえから言ってんだよ!


 街に魔人が襲ってきたときがある。魔人はとても強く、一介の冒険者では相手にできるもんじゃない。ライトと俺は冒険者を初めて一ヶ月に満たない超新人。にも関わらずライトは襲われていた女の子を助けて、一太刀で切り捨てた。英雄の誕生である。

 ライトがお祭り騒ぎの街を見て、困惑して言った言葉はこれだ。「なんか、僕やっちゃった?」


 酷い。酷すぎる。これは天然超えて病気だ。そう考えてライトを病院に連れていったが異常は見つからなかった。やばみ。


 ストレスが限界に近づいていた。

 冒険に出かければライトの無自覚チートぶりにイライラされられ、街に戻るとヒロインズの修羅場。逃げようとするとライトに仲裁を頼まれ、巻き込まれる。

 ライトは常識がないので、クエストの受注、冒険の用意、食事、すべて俺の仕事だ。ライトに任せたら大変なことになるので俺がしている。依頼を安く引き受けたり、詐欺られたりするのだ。

 しかし、もう無理。イライラする。



 なのでライトに「ざまあ」をすることにした。最近の流行りだ。

 これはライトが悪いよね? うん、悪い。

 よし、ざまあしよう。読者の皆さま(いるか分からんけど)、ご期待ください。これから爽快感溢れるざまあをしようと思います。


 よくある、生ぬるいざまあではありません。あれさ、意味わからんよね。(唐突)

 殺されかけたりのに相手を許したりするやつのこと。殺されそうになったのになぜ許すんだよ! おい!










§ § § §









 あれから数日後。

 俺とライトは依頼を受けて、森を歩いていた。滅多に人が入らない森である。

 周りに人がいないのをよく確認してから、俺はその場に立ち止まった。


「ライト」


 少し前を歩いていたライトが後ろに振り返る。


「なんかあった?」

「話があるんだ」


 背中に背負っていた荷物を下ろす。単純に重いからね。

 ライトを見つめる。こちらを見る純粋な目。裏切りなどされたことないのだろう。いや、されても気付かないほどの鈍感なだけか。とにかく、今から俺に裏切られるなんて予想していないに違いない。


 端正に整った顔。これで多分、ライトは自分はフツメンだと思ってるんだろうなあ。これだから、ラノベ主人公は。

 そういえば、現代ジャンルで髪の長い自称インキャが髪切ったり、眼鏡外したらイケメンだったというのも多いよね。あれも無自覚チートの一種である。いや、無自覚イケメンというべきか。どっちでもいいけど、イケメンって気づけよ! ……なんで鏡見ても自分がイケメンって気付かないんだろうね。(諦め)


「それでは皆さんお願いします」


 大きめの声で周りに聞こえるように言う。すると、周りから黒尽くめの格好をした六人の輩が俺とライトを取り囲むように現れる。黒尽くめだけど犯人じゃないよ?

 ライトは驚いたように周りを見る。そして俺を見た。

 俺が説明するのを待っているようだ。


「ごめんな、ライト。これは殺人ギルドの人達だ。俺が雇った。薄々感づいてると思うが俺はお前を裏切る」


 いくらライトが強くても殺人ギルドの精鋭六人の相手は厳しいだろう。雇うのにめっちゃ金かかった。

 殺人ギルドといっても、今回の目的は殺人じゃない。

 剣だ。ライトは父である剣聖からもらった剣をとても大切に持っている。


「俺の目的はお前の持っている剣だ。おとなしく差し出せば怪我もすることはない」

「嘘だ! 俺君が裏切るなんて!」

「嘘じゃない!」


 俺は初めてライトに怒鳴った。


「俺はな、お前のその自分の強さに無自覚なことにずっとむかついていたんだ!」

「……そうなんだ」

「ああ、そうだ。いっつもいっつもへらへらしながら無双しやがって! もしかして強さを謙遜するのがかっこいいなんて思っているのか!」

「……いや、僕はそんな強くなんて……」

「それだよ! それ! そういうのがむかつくんだよ! 言っとくけどな、お前は強いんだよ! めちゃくちゃ強いんだよ!」

「…………」

「それをこんなの大したことないだとか抜かしやがって! 俺はお前にイライラしっぱなしだったんだ」


 ライトは、何も言わない。ずっと下を向いていた。


「こっちを見ろ! ……お前、気づいてないんだろうなあ。俺はな、依頼の報酬を誤魔化して、お前より多く報酬を分けていたんだ。お前はそれを疑うことなく信じるとか、何考えているんだ。騙されると思わないのか。俺とお前はまだ出会って一月なんだぞ」

「…………」

「……なんか言えよ! ああ、もういい。なんか面倒くさくなった。剣もいらねえ。今日を持ってこのパーティーは解散だ」


 合図をしてギルドの人には帰ってもらう。

 俺はもう一度ライトを見てから、街の方を向く。


「……俺は違う街に行く。報酬の件で訴えるんなら好きにすればいい。じゃあな、今度は騙されるなよ」


 歩き出す。

 俺とライトはコンビとして合わなかった、ということだろう。

 思えば、イライラもしたけど楽しくもあった。今までありがとう、そう思ったが口では言わなかった。


 ざまあしようと思ったが、俺も甘いな。そもそも、俺にはライトをざまあする理由なんてなかった。ただ単に俺は最低な奴だ。


「……待って」


 立ち止まる。


「俺君がそんなことを思っているなんて思わなかった。ごめんね」

「……」

「これから僕は俺君をいらいらさせないようにするから、よければ、もう一度パーティーを組まないかな」

「……なぜだ。俺はお前を裏切って、お前の大切なものを盗ろうとした。俺なんかと組まないほうがいい。……じゃあな」

「待って! ……僕もね、ずっと君に隠してきたことがあるんだ」

「……」

「僕はね…………」









 ――君が好きなんだ。







































 え?


「…………え?」

























 いやいやいやいやいやいやいや!!


 え、まじ?


 ちょ、まっ。ええ?


 ええぇ、あり得ないじゃない? まじで? ええぇ?  んん?






「…………それって、ライクの方の好き? ……それとも、ラブ?」






 俺はライトに問う。

 これは、大事な大事な質問だ。















「ラブの方……」











 !?!?!?












「そっか、らぶか。……俺はあんなことしたのにも、関わらず?」


「うん、そうだよ。僕は俺君のことが好きだ」


















「いや、俺もだよぉぉおおおおお!!!!!」






 思わず叫ぶ。まじか、まじか。

 え、え? 想定外想定外想定外想定外。








「なんだぁ。両思いだったんだね」




 ライトは頬笑む。

 そして、ゆっくりと近づいてきて俺を抱き締めてきた。



「今日からもよろしくね」












 幸せえええええええええ!










 え? なんだって?

 ざまあ、してないって?


 それなああああ!!!!






 本当のタイトルはこれなんだ。言うの忘れてたから今言うよ!





 親友の無自覚チート鈍感ハーレム主人公(親強い)が女の子にモテモテで、嫉妬した俺が親友にちょっかいかけたら両思いだった件!








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