28話 手のひらの上
「わたしは、そしてあなたは、だれかな?」
・・・・・・あぁ、くっそ。
お前は最高のヒロインだよ。俺の人生の主人公の背中を見事に押しやがる。
そんなの決まっているだろう!
「超ド級の美少女倉吉初花だ。育山火累の攻略なんて朝飯前のメインヒロインだ!」
俺は不敵に笑う。
いつの間にか口角が限界まで吊り上がっている。
無限に湧き上がるモチベーションに俺は頭を全力で回す。まずは由希の奴と仲直りしないとな・・・・・・!
「あははははははははははははははははははははは!」
「・・・・・・あ?」
唐突に笑い声が響き、遅れて目の前にぶぉんと米五蒼星が現われる。どうやら俺のEPに勝手に干渉されたらしい。
「やあ、超ド級の美少女倉吉初花さん」
「んあっ!?」
にっこり笑った米五の言葉にカッと俺の身体を熱が満たす。
そんな俺に米五はひとしきり笑うと涙を拭いつつ言う。
「いやあ、それにしても上手くいったねぇ、立川さん」
「そ、そうだね・・・・・・」
「・・・・・・あ?」
顔を引きつらせる立川に首をかしげる。
「これは実はキミを復活させるために仕組まれたことだったんだよ。ああ、もちろん今日やるつもりはなかったけどね。たまたま立川さんとキミがばったり出くわしたから、立川さんが今やろうってわたしに連絡くれたんだ」
「はぁ?」
「作戦立案はわたしで、実行が立川さん。キミを煽ればこうなることは分かってたし、それに適切なキャラクターは倉吉初花だろうからね。倉吉初花を立川さんに演じてもらったんだよ。アルフくんを普段から演ってる立川さんなら余裕だろうと思ってね」
「ごめんね! 優くん! 私どうしても優くんと由希ちゃんに仲直りして欲しくて」
「ああそう・・・・・・」
また俺は米五の手のひらの上で踊らされたのか・・・・・・。
脱力感に全身を襲われる俺の視界ににやにや笑う米五が映る。
「悔しそうだねー、孫崎くん。で、由希ちゃんの攻略、諦めるの?」
「・・・・・・!」
懲りずに煽る米五に、期待するような視線を俺に向ける立川。
俺は嘆息し「攻略するのは由希じゃなくて火累だけどな」と前置き顔を上げる。
「バカめ。大天使倉吉初花ちゃんが友達との仲直りをしないわけがないだろうが」
米五の口が裂けるのではないかというほどに笑みをかたどり、立川がほっと安心したように息をつく。
育山火累、首を洗って待っていやがれ。骨抜きにしたるわ。
というわけで、週が明けて月曜日。
一人で育山火累との仲直りの算段を立てた俺は意気揚々と登校し席について、これまでのように元気いっぱい友人たちと会話する。やはり様子がそれまでと違ったことには気づかれていたようで、ちょっとご飯食べ過ぎちゃってと言い訳をしておいた。当然、一週間ずっと!? と突っ込まれてしまったがまあ初花は料理が好きだし食べることも大好きなので問題ないだろう。
そんな風に何気ない会話を繰り広げながら今か今かと火累の登校してくるのを待つのだがいつまで待っても奴は登校してこない。不審に思っていると、とうとう担任の教師が教室に入ってきて朝のショートホームルームが始まってしまった。
仲直りのために朝から布石を打つつもりだったのに、出鼻をくじかれた気分だ。
まあ大勢には影響しないからいいけども・・・・・・とせっかく用意した計画がそもそも機能しないことに若干落ち込んでいると担任が話しはじめた。
「あー、唐突だが初めに連絡事項がある。育山火累が転校した」
「はぁ!?」
「あん? どうした、倉吉? あーそっか、お前そういえば今日のプチ発表会のペアが育山なんだったか・・・・・・まあこっちで何か考えとくわ。とりあえず座れ」
そこまで言われて俺はクラスメイトから視線を集めていることに気づいて腰を下ろす。本来なら咄嗟に初花らしからぬリアクションを取ってしまったことを取り繕ったり、顔を真っ赤にしたりしなければならないのだがそれどころではなかった。
・・・・・・転校って何だよ。
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