幕間1 ありふれないぼっちの話

 これは本当にここだけの話なのだけれど、あたしは寂しがり屋だ。

 勉強をする時は自室に独りでいるのが嫌で必ずリビングに行くし、子供のころは留守番が本当に出来なかった。今も出来なくはないけれどそれでも出来ることならやりたくない。

 だからあたしは友達が欲しかった。

 小さいころからずっと。今まで。

 でも出来なかった。

 こんな性格だから。

 あたしはずっと孤立していた。

 休み時間、同級生がわいわいと騒ぐ中、あたしは独り自分の席に座っていつも本を読んでいた。彼らが外に遊びに行ってもあたしは教室に独り残って読書に勤しむ。別に読書が好きなわけではない。嫌いでもないけど、そうするしかなかったのだ。哀れまれるのが嫌だったから。同情されるのに耐えられないから。いつも読書をしていれば、読書が好きだから読書をしているのだと思われるからそういうことがない。だからあたしはいつも読書をしていた。

 そんなあたしを見て誰かは、なら自分から話しかけに行けばいいのでは、と言うだろう。

 無理に決まってんでしょバカ。

 別にあたしはコミュニケーションが出来ないわけではない。問題なく出来る。そこにハードルはない。あたしが出来ないのは、自分から話しかけに行くのは友達になってくださいとお願いしているみたいだからだ。

 もちろんそんなあたしにも話しかけに来る人間はいる。多くは担任の先生だったけど同級生もまれにいた。そのときあたしはたいてい無視をする。あるいは睨む。良くても近寄るなオーラを出しながらの「なに?」だ。

 だってもしも話しかけられて嬉しそうに対応してしまったら、実は友達が欲しかったけど恥ずかしいから読書ばかりしていたんだなと思われてしまう。

要するに独りぼっちなのは望んだ結果ではないと思われたくなかったのである。

 そんなあたしに友達が出来るだろうか。

 無理に決まってんでしょバカ。

 これを理解したのはそこそこ成長してからだったが、それでも自分の性格を変えるなんていうことは出来ないわけで小学校に通っている間はついに一人も友達が出来なかった。

 六年間で読破した本のタイトルを羅列して真っ黒に染めた卒業アルバムの最後のページは壮観だったわね・・・・・・。

 中学校に通い始めるとそんなあたしにも友達が出来た。当時は奇特な人もいるものだなぁと思ったものである。そんな人、いるはずがないんだけど。

 あれは中学二年生の夏休みが明けた時のことだ。

 とある女の子があたしに話しかけてきたのである。

 あたしは当然いつもと同じように素っ気なく返す。それでもその子は何が気に入ったのか休み時間の度にあたしに話しかけ昼食は必ず一緒に食べに来ていた。


「由希ちゃーん、一緒にご飯食べよ~」

「勝手にしなさい」


 そんなあたしに気を悪くした様子もなく彼女はあたしの正面に座る。


「わ! 由希ちゃんのお弁当、今日は一段とおいしそうだね!」

「ふん、当然よ。あたしの家には専属のシェフがいるんだから」


 まあ嘘だけど。

 お母さんの作ったお弁当を褒められて気をよくしていると、彼女があたしのお弁当に熱視線を注いでいるのが分かった。

 そんな彼女に食べ始めるのをためらっていると、その視線がじっとあたしに向けられる。

 さすがに彼女の言いたいことを理解したわたしはぐぬぬ、と散々ためらった末に口を開く。


「・・・・・・何が欲しいの。好きな物を選びなさい。特別にあげるわ」

「え!? いいの!?」

「・・・・・・ふん」

「えー、じゃあどうしよっかなぁ」


 うきうきわくわくといった感じであたしのお弁当に目を輝かせる彼女。なんだかすごく楽しい。


「じゃあ、これっ。もらうね!」


 言って彼女がそのまま口の中に放り込んだのはほうれん草の煮浸し。


「あっ」

「ん~~~~~! おいしい!」


 頬を緩ませる彼女を睨むあたしの瞳に涙が浮かぶ。

 絶対に選ばれないと思ったのに! たまご巻きとかそのあたりを選ぶと思ったのに!


「あっ、えっ!? 由希ちゃん!? どうしたの!?」

「なにもないっ」


 まあ、そんな一幕があったりしながらも、中途半端な時期に、唐突に始まった彼女との友人関係は順調に(?)進み、あたしは彼女に徐々に気を許していった。

 そんなある日の朝のことである。

 彼女が見知らぬ男子生徒を連れてきた。


「おはよー、由希ちゃん」

「えっと、おはよう遊梨浜さん」

「・・・・・・」


 あたしは何やら頬を染めあたしをちらちら見てくる気の弱そうな男子生徒から視線を切って彼女に視線で説明を求める。


「あ、そっか二人ははじめましてだったね。この冴えない男の子はわたしの幼馴染みのかんちゃん」

「ちょっとみくちゃん!?」

「えー、だってかんちゃんいつも朝寝坊してわたしに起こされてるじゃん」

「なっ!?」


 からかうように片目をつむった彼女に男子生徒が真っ赤に顔を染める。


「ねー聞いてよ由希ちゃん。かんちゃんったらいつも寝癖がすごくてね、今日なんか」

「あーーーーーーーもう黙っててよ、みくちゃん!?」

「・・・・・・」


 繰り広げられる呼吸ぴったりの掛け合いにあたしは見ていることしか出来ない。

 よく考えたら当たり前なのだが、彼女にはあたし以外にも友達がいるのだ。しかもあたしよりもずっと仲のいい。なんだかそれは悔しかった。

 それからはそのかんちゃんとやらがあたしたちの会話に加わることが多くなった。加わると言ってもあたしとは直接話さないし、そいつと彼女、あたしと彼女が同じ場所で別々の会話をしている感じだった。普通に邪魔だし、正直言ってどこかに行って欲しかったのだが、彼女の友人を無下に扱うことも出来ない。

 ある日の昼休み。

 あたしはかんちゃんとやらに校舎裏に呼び出された。

 面倒だが行かないわけにもいかないので向かう。


「あ、遊梨浜さん、ごめんね、急に呼び出しちゃって」

「で、なに、話って」

「あ、・・・・・・う、うん」


 あたしが言うとかんちゃんとやらは、はにかむように笑って少しうつむいた。

 怪訝に思っていると、深呼吸を数度繰り返しようやく真っ赤になった顔が持ち上がる。


「ずっと前から好きでした! ぼくと付き合ってください!」

「・・・・・・は?」

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