23話 黒幕
人気のないとある一角。
米五は壁を背に俺、立川と向かい合っていた。
俺は米五を強く睨む。
「おい」
「ん? こんな暗いところに連れ込んで何か用? レイプ?」
へらへらと笑う米五に俺は歯をギリと食いしばる。
「・・・・・・お前は何だ」
「何、とは?」
「・・・・・・お前、由希がキレるの分かって地雷踏んだだろ。何であいつの地雷を的確に知ってる。お前は、何がしたいんだ」
それはずっと感じていた違和感。
常に思考が見透かされていて、全てこいつの手のひらの上で踊らされているような。
実はアルフだった立川が半ば強引に連れてこられたのもそうだし、まだVRとリアルの人間が結びついていない時からリアルで俺由希立川の三人を繋いでいたのはこいつだ。初花火累無子アルフと俺由希米五立川が結びついたのは全くの偶然だが、それもこいつの思惑通りなのではないかと思えてくる。
話せと強く迫る俺に米五がくすりと笑う。
「ああ・・・・・・楽しいなぁ・・・・・・」
「は?」
場にそぐわない台詞に俺の口から間抜けな音が抜ける。
「ほら、フィクション大好きなキミなら分かると思うんだけど、黒幕っぽい役割ってさ。楽しそうだなって思ったことない?」
「・・・・・・は?」
脈絡もクソもない突飛な台詞に得体の知れない何かがぞわぞわと胃の腑を這い回る。
「登場人物全員を思ったように動かして、真相にたどり着いた彼らに全てを明かす」
一つ苦笑を挟む。
「まあ、そのあとは敵対して倒されることが多いわけだけど」
こいつの言わんとするところを理解した俺はギリギリと拳を握る。
「・・・・・・つまり、お前がその『黒幕』ってことかよ」
米五が片目をつむる。
「まあね」
悪びれもせずにウィンクをキメた米五に突き上げた怒りを何とか抑え込む。感情的になるのは今じゃない。
理性の残りカスが言葉を絞り出す。
「・・・・・・どういうことだ」
そんな俺に米五がくつくつ肩を揺らし「そうこないとね」と指を鳴らす。
「さて、それじゃあお楽しみ、種明かしといこうじゃないか」
言うと米五は己のEPを起動させ手早く操作する。
しばしして俺のEPにとあるニュース記事が送られてきた。
同様に送られてきたらしい立川が首をかしげる。
「これは・・・・・・?」
それは数年前のニュース記事。冒頭の画像では少女が可愛らしく微笑んでいる。怪訝に思いつつ、目に入ったニュースタイトルに俺は目を見張る。
米五がそんな俺に笑みを漏らす。
「気づかなかったかな? 結構話題になったと思うんだけど。面影もそこそこあるし、ありふれた名前って訳でもない。どちらかと言えば珍しい名前。その上とびっきりかわいい女の子。絶対会った瞬間に気づかれると思ってたから少しショックだったなぁ」
などと言いつつもその声音は弾んでいる。
曰く『天才小学生、米五蒼星氏今年もノーベル賞受賞ならず!』
空いた口が塞がらない。
「まあ、プライドが許さないんだろうね。小学生に後れを取るなんていうのが。軽く三回は受賞に値する仕事をしたと思うんだけど結局まだもらえてないんだよね。いつくれるのかな。もうそろそろくれてもいいと思うんだけど」
米五がそんなことを何でもない日常会話のありふれた軽い愚痴であるかのように笑って言ってのける。
訳がわからない。
俺が衝撃のあまり動きを止めていると、立川がおずおずと言う。
「私は気づいてた、よ?」
「え?」
裏切られた気分だった。
「え? そうなの? じゃあ言ってくれればよかったのに」
「あ、そうなんだ・・・・・・てっきり隠してるのかと思ってた・・・・・・」
「いやいやまさか! せっかくほぼ初めての同級生との学校って事でサインの練習とかもしてたぐらいだよ?」
「あはは・・・・・・」
唇を尖らせる米五を立川が笑って受け流す。
米五が「まあいいや」と不満げな表情で続ける。
「じゃあここで問題。その記事を最後にわたしはめっきり公の場に露出しなくなったわけだけど、その時わたしは何をしていたでしょうか?」
分かるわけねえだろクソが。
ちらりと視線をやるも立川はふるふると首をふる。
「はい時間切れー」
ぶっぶーと人差し指でバッテンを作りながら米五が口にする。
「正解はこの学校設立のために研究していた、でした~」
分かるわけねえだろクソが・・・・・・って、え? 何?
戸惑う俺と立川を見て米五が満足そうにうなずく。
「はい、じゃあ続いて第二問。わたしの【スキル】は何でしょうか?」
は? スキル? それどころじゃないんだが。
楽しそうな米五はそれだけで満足なのか、俺たちに答えさせる時間すら取らずに答えを発表する。
「正解は・・・・・・『テレパシー』でした~。要するに、VR空間内では任意の生徒の思考を全て読み取れるってことだね。このスキルのおかげで遊梨浜さんの地雷も踏めたし、孫崎くんの目標も分かったのでしたー」
「え?」「は?」
次々と流れ込んでくる情報に処理が追いつかない。
「じゃあ最終問題です。わたしはどうして以上のようなことが出来るのでしょうか?」
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