20話 俺オルタが美少女なんです

 翌日VRにて。

 俺は重い足を引きずり高校に向けて歩いていた。

 当たり前だが、外見はこれまでと何も変わらない倉吉初花だ。

だが、内面はどうするべきなのか。

今まで倉吉初花として振る舞えていたのはそこにリアルの人間がいないからである。しかし、火累無子アルフが由希米五立川であると判明した今、初花として振る舞える自信がない。だって孫崎優が語尾に☆とか付けて喋ってるんだと思われるのだ。普通に無理では?

 だが孫崎優として喋るというのも受け入れがたい。倉吉初花として話すことに照れているのだと確実に思われるし、そもそも孫崎優と倉吉初花は別人だ。倉吉初花に孫崎優の言葉を喋らせるなどあってはならない。

 だから俺はこれからも変わらず倉吉初花としてVR空間では振る舞おうと思う。

決意を新たにしていると校舎にたどり着いていたので俺は履き替えようと靴を脱ぐ。

前を向くとアルフがいた。

げ・・・・・・。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 俺とアルフは、というより立川は互いに見合って硬直する。

 しかしそれも一瞬でアルフの口はいつものように笑みをかたどる。


「初花ちゃん、おはよう」


 そんないつものアルフの爽やかスマイルと爽やかヴォイス。

 俺もいつものように元気いっぱい笑顔満点みんなの初花ちゃんとして挨拶する。


「・・・・・・」


 挨拶する。


「・・・・・・」


 あいさつを、する。


「・・・・・・ぉ、ぉぅ」


 ・・・・・・無理なんだよなぁ。

 だって俺の『倉吉初花』という一面はいわば見られたくない秘密なのだ。すでにばれてしまっているからといって、改めて観測されるのはまた別の問題であり受け入れられない。


「やっぱり少し恥ずかしいね」


 俺がふいと顔だけ背けていると一転、アルフは外見がアルフなだけの立川に変わってあはは、とはにかんだ。


「・・・・・・まあ」


 俺が曖昧にうなずくと「とりあえず教室行こっか」と立川が歩き出す。俺はその一歩後ろについて歩く。普段なら、古来より続く日本人の幻想、大和撫子ムーブを意図せずかましてしまった俺はやはり本質的に美少女なのだろう、などと悦に入っているところだがそんな場合ではない。

 オーバーヒート気味の思考を何とか回していると、アルフが速度を落として俺の隣に並んできた。


「でも、うん、少し納得したかも。初花ちゃんの中の人が優くんだって分かって」


 独り言の様に呟いた立川に俺は視線で意図を問う。。

 立川は俺をちらりと確認し口を開く。


「ほら、初花ちゃんってすごくかわいいなって思ってたから」

「・・・・・・」


 少し嬉しい。かなりお世辞くさいが、全てが嘘という事はないだろうからな。


「うん、なんていうのかな・・・・・・」


 立川が照れたように頬を掻いて笑う。


「・・・・・・理想を詰め込んだ女の子・・・・・・みたいな?」

「・・・・・・へえ」


 てれてれ。


「うん。・・・・・・こんなこというと『倉吉初花』ちゃんに失礼かもしれないんだけど」


 そこでちらっと立川はこちらに視線を寄越す。


「作られたキャラクターならそれも納得かなぁって。あ、少し偉そうだったかな」


 俺はそんな立川にぼそりと呟く。


「・・・・・・いや別に」


 立川がパチパチ瞬く。



「そうかな?」


 俺が黙り込んだままでいると立川は「ならよかった」と小さく言って微笑んだ。

 そのまま喧噪の中を静かに進み、やがて教室にたどり着く。

「じゃあまた後で」小さく手を振ってきた立川に「ああ」返して俺は自身の席に向かう。

 先ほどよりも幾分か思考力を取り戻した俺は席に着く。すると同時に、前の席にすでに座っていた無子が振り返る。


「おはよう、孫崎くん」


 にやにやと笑いながら。


「!?」


 カッと俺の中で再び羞恥が再燃する。


「あれ? だめだった?」

「だっ、だめにきまっ・・・・・・」


 決まってんだろ、と出かけた台詞をとっさに飲み込みなんと言うべきか思考を巡らす。


「・・・・・・」


 巡らすのだが、脳まで茹で上がっているせいで何も台詞が思いつかない。


「ん~? どうしたの~?」


 それでもからかうのを止めない無子に俺は


「ぐもっ!? おぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええっ!」


 びちゃびちゃびちゃ!


 口の中にありったけの手作りクッキーをゲロを吐かせる。

 これで少なくとも朝の間は大丈夫だろう。

 しばらくすると火累が登校してきたが俺は当然挨拶できない。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 火累がこちらをちらちらと見てきたのが分かったが俺は気づいていないふりをした。

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