18話 バチバチロジカル

 米五の提案と米五の借りてきた鍵によって場所をホームルームから空き教室に移した俺、由希、立川は目の前の昼食に一切手を付けず、たった今判明した事実に唖然としていた。米五だけはそんな俺たちを楽しそうに眺めている。

 頭の中でまとまらない情報に俺はとりあえず困惑を奥に押しやり口を開く。


「いやいやいや待て待て待て。・・・・・・つまり、今の話をまとめると、育山火累が遊梨浜由希で【スキル】が『よく考えたら呪いラッキースケベ』、アルフレド・バルグが立川沙耶で【スキル】が『感度三千倍』、虚無無子が米五蒼星・・・・・・なのか?」


 三人がそれぞれ肯定する。

 今まで前提にしていたことがガラガラと崩れ、めまいがしてくる。

 しかし納得できることが多いだけに容易に否定できない。

 まず由希によれば火累の外見は由希を男性化したものだということだったが、確かに二人はよく似ている。外見のみならず、性格なんてそっくりだ。それに育山の行動と由希の【スキル】も合致している。アルフに関しても立川が確かに以前自身のアバターは北欧系の男性だと言っていたし、言われてみれば二人の雰囲気も似ている。【スキル】に関しては由希と同様だ。また、虚無無子と米五蒼星も改めて考えてみれば外見は別として性格は同じと言っても過言ではないほどに一致している。また証拠としては弱いが『虚無無子』なんていう名前はおかしすぎる。ふざけて名付けられたとしか思えない。あと、米五だけスキルを言わなかったが、それは今あまり重要でなかったのでとりあえず流した。

 それらから導き出される結論に俺の顔が火照っていく。

 ・・・・・・だってそれは要するに俺は由希に惚れられようと努力していたということで、ここにいる全員が倉吉初花は俺の一面であることを理解したと言うことだ。

 これほど恥ずかしいこともない。

 俺は受け入れがたいその事実に否定材料を見つけてくる。


「・・・・・・いや、それはおかしい。だって、この学校のホームページでも何でもいいが、そこには各生徒に一つずつVR高校が与えられ、その一人以外の生徒は全員AIだと書いてあるだろうが。なのになんでここにいる四人が同じVR空間の高校に通ってるんだよ」


 他の三人とは対照的に一人楽しそうな米五が言う。


「ね。学校のミスかな?」

「そんなわけないだろ。こんな大きなミスすぐに気づく」

「じゃあ、嘘をついてるとか?」

「ありえない。ここは国から認可された教育機関だぞ」

「えー、じゃあどうしてなんだろうねー」

「・・・・・・」


 楽しそうに笑って言う米五に俺は押し黙る。何も分からない。否定材料を見つけようが実際に起きていることなのだから恥ずかしいことに変わりない。

 あー・・・・・・ほんとうにどうするんだよこれ・・・・・・。


「あ」


 と、絶望していると立川が何か思いついたようだ。

 他の三人はそろって立川に視線を向ける。

 立川が恥ずかしそうに笑う。


「もしかしたらなんだけど、各VR高校で生徒は全部同じなんじゃない?」

「「!」」


 俺と由希がその台詞に目をカッと開く。

 むくむくと希望が溢れてくる。

 それだ、それしかない。

 それなら今後も倉吉初花としてVR高校に通っても恥ずかしくない!

 そんな俺たちに笑みを深めた米五が首をひねる。


「どういうこと?」

「えっと、学校側の説明も、私たちのアバターが同じVR空間に存在してるっていう私たちの認識も、どちらも間違ってないとしたときの仮説なんだけど。例えば、私のVR空間を例に挙げると、そこには無子ちゃんも火累くんも初花ちゃんもみんないるんだけど、私のVR空間のその三人はAIなの。三人の中にはAIが入っていて、中に入っているのは蒼星ちゃんでも由希ちゃんでも優くんでもない。で、そのとき例えば蒼星ちゃんの空間にも、アルフも火累くんも初花ちゃんも存在してるんだけど、同様にその三人の中に入っているのは現実の私たちじゃなくて私たちの思考を模したAI。蒼星ちゃんの空間でその四人の中でAIじゃないのは無子ちゃんだけってことなんじゃないかな?」

 

 俺はぱっちーんと膝を叩きたい心持ちだった。しないけど。

 つまり高校はAI生徒の外見や性格を、それぞれの現実世界の生徒が作ったアバターから流用したのである。それにより、各VR空間の高校に所属する生徒の顔ぶれは全て同じになり、違いはどの生徒がAIではないか、というだけになる。また、俺たちがリアルの高校に通っている間は俺たちの思考を模したAIがVRで高校に通うのだから、そもそも俺たちの思考を模したAIは存在しているため改めて作成する必要がない。これはかなりのコスト削減につながる。

 悔しさを覚えるほどの立川の合理的な仮説に、俺はテンションが上がっていた。

 なぜならAI倉吉初花がどれほどの奇行を行おうとも、それを行ったのはあくまで俺の思考を模したAIであり俺ではない。それはすなわち俺がそのような行動を取りかねないということなのだが、俺ではないのだ。なので、俺はそんなことしませんが、と言い張ることが可能であり、羞恥はかなり軽減される。

 なのでこれからも何の心配もなく倉吉初花としてVR高校に通うことが出来るというわけだ。

 あ~、よかったー。

 と胸をなで下ろしていると米五が口を開いた。


「なるほどね。すごくいい仮説だ。じゃあ確かめてみようよ」

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