14話 初花は陽キャ

 翌日。

 昨日、リアルではなぜか俺本人がラブコメじみたイベントに巻き込まれ大恥をかいてしまったのでリアルはクソだと改めて思ったわけだが、今日はVRなので自分から積極的に巻き込まれていくことになる。

 がんばるぞ。

 というわけで改めて気合いを入れなおし、火累にちょっかいを出しながら午後一発目の授業。まあ、今日の成果はそこそこと言ったところか。諦めずに火累に話しかけ続けていることが功を奏したようで、なんとなく火累の態度も柔らかくなってきている気がする。

 話しかけ続けるのは当然として、一つ何かイベントを起こしたいなと考えていると担任の教師が教室に入ってきた。

 この高校はそれぞれの生徒にVR高校が与えられそれぞれのVR空間で授業を受けているため、従来の高校と同様に授業を行うと、どうしてもそれぞれの生徒間に授業進度のずれが生じる。それを解消するために映像授業が採用されているのだが、担任の教師が入ってきたということは次の時間は普通の授業ではないのだろう。

 さて何だったかしらと時間割を見ると、次はホームルームらしい。

 へー何するんだろうと思いながらあいさつを済ませ、担任が話しはじめた。

 それによると再来週の月曜日、二人一組でプチ発表会を行うらしい。どうやらそれは親睦を深めることを副目的としているようで、形式も内容もパートナーも自由。まあ確かに、そんな面倒なものに一緒に取り組めばどんな陰キャでも友達が出来るだろう。

 ・・・・・・これは大チャンスだな。

 火累とペアを組むことが出来ればかなり火累との精神的距離を詰められる。

 一人密かに企んでいると、ペア決め&発表の内容決めの時間になった。教室内がにわかに騒がしくなり、クラスメイトが自由に移動を始める。

 さて早速火累の野郎に声をかけてやろうと身体の向きを変え


「いーちかちゃん!」


 ようと思ったら、後ろから誰か話しかけてきた。


「あ、芽依ちゃん! どうしたの?」


 そこにいたのは初花の友達の一人。明るく元気な女の子で初花とは良く気が合う。ただ、俺とは絶対に気が合わない。


「良かったら一緒に発表しない?」

「・・・・・・あ、あー、発表、ね」

「あれ、もしかしてもう誰かと約束してたりする?」


 芽依がこてん、と首をかしげる。

 俺は微妙に罪悪感を感じながらパチンと手を合わせる。


「ごめん! 実はそうなんだ! ほんとごめんね?」

「あ、そうなんだ! ううん全然! 気にしないで! じゃあ、また!」

「うん! 誘ってくれてありがとね!」


 初花の親友、芽依はめちゃくちゃいい奴なので少しも俺を非難するような雰囲気を見せずに元気に手を振って友達の一人のところに向かっていった。芽依なら俺が火累とペアを組むことを知っても悪意を持って噂を流す心配などないから安心だ。

 ちゃんとお詫びしないとなぁ、と思いつつ火累の方に身体を向ける。

 まさかこの芽依と話した数十秒の間に誰かとペアを組んでいるなど、この孤独のクソぼっちに限ってあり得ないと思っていたがやはり窓の外をぼんやりと見つめているのみだった。しかも、こいつの周りにはぽっかりと空白が出来ていて誰にも誘われる気配がない。

 アルフも無子もすでにペアを組んでいるようだし、この倉吉初花ちゃんがいなかったらお前は余り物と組まされることになるんだから感謝しろよ? 

 などと思いつつ声をかける。


「火累くーん!」


 火累がちらりとこちらに視線を寄越す。


「良かったらわたしと発表しない? もしペア組んでなかったら、だけど」


 かすかに火累の目が見開き、その視線は芽依の去っていった方に向けられた。どうもこいつはてっきり俺が芽依とペアを組んだものと思ったらしい。

 ふはは感謝するがいい、と上目遣いに火累の返事を待っていると、火累が視線を戻しこちらを睨んできた。

 ・・・・・・ははーん、こいつは俺に同情されたと思っているのだろう。それはプライドが許さないから俺を睨んでいる、と。

 俺は五指を絡ませもじもじする。


「あ、い、嫌・・・・・・だったかな? 火累くん色々知ってそうだし、楽しい発表が出来そうだなって思ったんだけど・・・・・・だめ、かな?」


 火累の視線が丸みを帯びてかすかに逸れると、ふんと鼻が鳴る。


「・・・・・・分かった。オレがあんたとペアを組んでやる」

「やたっ!」


 俺は小さくかわいくをコンセプトにガッツポーズを決めて、にこにこ顔でずずずと自身の席を火累の机にくっつける。


「じゃあ、火累くん。なにか発表したいテーマとかある?」

「文系一部有用論、その論理と愚かさについて」

「がっつりあるね!」


 そんな感じで議論が捗ったり、胸を揉まれたり、クッキーを口の中にぶち込んだりぶち込まれたりしながら俺と火累は残り時間をそれなりに楽しく過ごすのであった。

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