13話 罰ゲーム
~前回のあらすじ~
運動神経の壊滅的に悪い俺と遊梨浜が策を弄し卓球で1点をもぎ取った。
「はい、じゃあ約束通り罰ゲームね。まずは互いのことを下の名前で呼んでみようか」
「「・・・・・・」」
「あはは・・・・・・」
制服に着替え終えた俺と遊梨浜はにやにやと笑う米五と、困ったように笑う立川を前に黙り込んでいた。
普通に負けた。
結果は11対1。
取れた点数はあの一点だけで、あの後流れを持って行かれてボコボコにされた。
まあ、流れが来ていたとしてもそもそも卓球がロクに出来ないのだから勝てないのは道理である。
「ほら、はやく」
「が、がんばれー・・・・・・」
どうにか罰ゲームを免除されないものだろうかと、数分粘ってみたのだが許される気配がない。
腹をくくった俺はしぶしぶ遊梨浜の方に身体を向ける。
遊梨浜がちらりとこちらに向けた視線と一瞬ぶつかった。が、すぐに外れる。遊梨浜は真っ赤だった。俺も似たようなものだと思う。
「お、おおおい」
「・・・・・・」
よく考えたら下の名前を呼ぶのがなんなのだ。俺が倉吉初花の時は平気で呼んでいるではないか。何も難しいことはない。倉吉初花は俺の一面なのだ。なら孫崎優に出来ない道理はない。
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ」
「・・・・・・」
・・・・・・出来ない道理は、ない。
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ・・・・・・ゆ」
「・・・・・・」
わたしは倉吉初花! 超絶美少女倉吉初花!
「・・・・・・ゅき」
「・・・・・・ふ、ふん」
消え入りそうな声で俺がぼそりと呟くと、遊梨浜がふんと口で言った。
「え? なに? 聞こえなかったんだけど?」
「あ、蒼星ちゃん・・・・・・」
耳に届いた弾む言葉の出所をキッと睨んでやると、にやにやと笑う米五が俺を迎えた。そのまま睨み続けるのだが、米五は少しも悪びれた様子を見せず、はやくはやくと急かしてくる。
・・・・・・ふぅ。
もう全部言ってしまおう。
わたしは天下無敵の超絶美少女初花ちゃんなのでおばけ以外は怖くないもん!
「・・・・・・おい、由希。あ、ああああああああ・・・・・・愛してる」
「っ!?」
「ブッフォオォ!」
ぼんっ、と遊梨浜・・・・・・由希から湯気が吹き出し、立川の鼻から鼻血が吹き出した。
立川、お前は何なんだ。
「へーそうなんだ。孫崎くんは遊梨浜さんのどんなところが好きなのかな?」
ええい! 皿を食らわば毒まで!
「・・・・・・プライドが高すぎて行動がわけ分からないところとか・・・・・・か、かわいい」
「っっっっっ!?」
「ブッフォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ!」
ゆだった頭で思いついたことを口にすると、真っ赤になって涙目になった由希がキッと俺の方を睨んできた。
心底楽しそうに肩を揺らす米五が口を開く。
「へー孫崎くんは遊梨浜さんのそこが好きなんだ。はい、じゃあ次、遊梨浜さんね」
「・・・・・・ッ!」
由希の鋭い視線も米五はどこ吹く風。
俺はぼそりと呟く。
「・・・・・・俺はちゃんと言ったぞ」
「・・・・・・ッ!」
今度はその視線が俺に向けられる。
こうすれば由希は言うと思ったのだ。
「・・・・・・す」
由希の口から何かが聞こえた。
「え? なに?」
拳をぎゅっと握りぷるぷる震わせ、赤くないところなど見当たらない由希を米五が全力で煽る。
「す、すぐ・・・・・・る」
「続けて言うと?」
「す、すぐ、すぐ・・・・・・! すぐ、るッ!」
「もっとちゃんと言うと?」
「優!」
叫ぶように俺の名前を呼んだ由希に米五が更に追い打ちをかける。
「はいじゃあ次は愛を囁いて」
キッと由希が顔を上げて俺と視線を合わせる。
どう考えてもそれは親の仇に向ける表情(ただし涙目)で愛しい人間に向けるものではない。
「す、すぐ、優・・・・・・! あ、あた、あた、あたし、は・・・・・・!」
「うんうん」
「あ、あんたのっ、ことがッ・・・・・・! す、す・・・・・・」
「うんうん」
「す、すk・・・・・・って、いえるわけないでしょうがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
由希は叫ぶと、回れ右してかばんをひっつかみ教室を出る直前、こちらに振り返り
「優のっ! ばかあああああああああっ!」
「ブッフォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ! ち、血が・・・・・・足りな・・・・・・い。ぐふっ」
「・・・・・・なんで俺なんだよ」
「あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
由希が去って血で染まった教室に俺の呟きがぽつりと落ちて、米五の笑い声が響き渡る。
・・・・・・だからリアルはクソなんだ!
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