9話 ここが地獄でございます
「ど、どうかな?」
たこさんウインナーを口に入れたアルフを俺は不安げに見つめる。
・・・・・・まあ、どうかなというのもおかしな話だが。ほとんど既製品だし。
アルフが口を押さえた。
「うっぷ・・・・・・ちょ、ちょっとトイレに・・・・・・」
「えぇ!? 大丈夫!?」
「あはははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
「・・・・・・」
やはりまずかったようで指の隙間からときおりゲロを吹き出しながら席を立ったアルフに無子は腹を押さえて爆笑し、ますます血の気の引いた顔で育山はオムライスを口の中にかきこんでいた。
ふっふっふ・・・・・・逃すものか・・・・・・味見してもらうぞ。
「火累くんのオムライスおいしそうだなー(ちらっ)」
「そ、そういえば虚無さん、あんたは昼ご飯食わなくていいのか」
話題を必死に逸らす火累。
まあ俺も無子の前には何も食事が置かれていないことが気になっていたのだ。
「ん? まあね。食べるのって面倒じゃない? 食事に幸福を感じないんだよね。ただ腹を満たすためだけというか。だから必要なとき以外は食べないかな」
倉吉初花にも本来なら食事など必要はないのだが、食事をしないと不自然だし、なにより食事をする女の子はかわいいので、脳を騙し満腹度合いなどをいじってVR内の食事をリアルでの食事だと錯覚するように設定している。ちなみに高校からは昼食時はアバターの中身をAIにすり替え一時的にログアウトすることでその間にリアルで昼食を済ませることが推奨されていたが、昼食イベントを逃すわけにはいかないので俺は授業中にEPで授業を見ながらリアルで昼食を食べることにしている。
・・・・・・というか。
「ん? 倉吉さんどうかした?」
スプーンを止めて己を見ていた俺に無子は笑いかける。
「えっと、最近わたしの友達も同じこと言ってたからそういう考えの人って結構いるのかなってびっくりしちゃって」
つい昨日、リアルで米五が同じようなことを言っていたのを思い出したのである。
俺がはにかみつつそう言うと今までスプーンを止めて無子を見ていた火累がこちらに丸くした目を向けてきた。
「ん? どうかした? 火累くん」
「・・・・・・ふん、別に」
「えっと、もしかしてだけど、火累くんもわたしと同じ事でびっくりしてた?」
「・・・・・・どうだろうな」
首をかしげてやると火累はぷいっと顔を背け、オムライスをスプーンですくった。
どうやら火累も俺と同じ事を思っていたらしい。
珍しいこともあるものだな・・・・・・?
まあどうでもいいやと思い直し、俺は目の前にぶら下がるチャンスに飛びつく。
「もーらいっ」
「あ?」
隣に座っている火累のスプーンの前に口を滑り込ませぱくっと口を閉じる。
「ん~! おいしい!」
俺は頬を緩ませ、固まる火累にぱちこんとウィンク。
「ごめんね。おいしそうだったからつい。ん? どうかした? 無子ちゃん」
「ああ、いや? 別に? 間接キスだなぁって思っただけ」
「あ・・・・・・」
自分で気づいたふりをするつもりだったのだが、ちょうど無子が寄越したナイスパスに乗っかり俺はみるみる赤くなっていく。
ちらりと火累を見る。
何事もなかったかのようにオムライスを食べていた。
ちゃんと!
赤面を!
しろ!
お前は今美少女と間接キスをしたんだぞ!
「あっ、あっ、あっ、え、えとっ! べ、べべべべべべべべべつにわたしはぜんぜんまったく気にしないんだけど、わ、わわわわわたしのたまご巻きあげるね!?」
俺は目を回し錯乱してみせる。
さっと青ざめた火累が立ち上がり、俺から距離を取る。
「いや、いらな――っ!?」
「お腹痛くて戻ってくるの遅くなっ――って、うわ!?」
火累が何もない所で足をもつれさせ、ちょうど帰ってきたアルフの方に倒れる。
・・・・・・え、これはまさか。
どっしーん。
目を恐る恐る開けると、火累がアルフの股間に顔を埋めていた。
「(ふがふが)」
「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!
イ、イグゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ!」
びゅるるるるるるるるるるるる!
びくんっびくんっ!
「ふ、ふたりともだいじょうぶ!?」
頬を紅潮させ白目を剥き絶頂する男の股間に男が顔を埋める。
・・・・・・なにこの地獄絵図。
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