7話 乳揉み事変

「そんなことよりもさ、みんなのVRで高校に通うときに使ってるアバターってどういったものなのかな? あ、ちなみにわたしのアバターはスタイルのいい女性アバターなんだけど」


 昼食を4人で摂っていると米五が唐突に話を変え、そんなことを言った。

 俺はそれに対してそんなの言うわけないだろ、とジト目を向ける。

 いくらそれぞれにVR空間が生成されていてVR上で関わることがないとはいえ恥ずかしい。まあ米五の奴は特に照れた様子もなく言ってのけたのだが。よく自分のアバターはスタイルがいいとか言えるな。自分のコンプレックスがばれるだろうが。

 と、思っていたのだが。


「あ、えっと、私は、少し恥ずかしいんだけど、北欧系の男性アバターを使ってるかな」

「へぇ、そうなんだ。立川さんはイケメンになりたかったの?」

「えっと、べつにそういうわけでもないんだけど・・・・・・」

 

 言って立川が照れたように笑う。

 アバターを選んだ理由は話したくないらしい。

 というかお前らよく言えるな・・・・・・恥ずかしくないのか?


「優くんはどんなアバター使ってるの?」


 はぐらかすように立川が俺に話題を振ってきた。


「え、まあ、俺は・・・・・・せ、背の高い男性アバター」


 普通の男性アバターと嘘をつこうとも思ったのだが、まあ多少は理想のアバターを使っていると言わなければ嘘だとばれてしまうだろう。

 それでも小柄な美少女アバターを使っていると言うよりはずっとましだ。

 だがやはり米五がにやにやと笑みを浮かべてきた。


「へぇ? 孫崎くんはもっと背が高くなりたいと思っているのかな?」

「・・・・・・」


 クソ!

 やっぱり無難にリアルの俺をそのまま使っていると言えば良かったか。


「はっ」


 遊梨浜が鼻で笑ってきた。


「・・・・・・なんだよ」

「あんた、あたしとほとんど身長変わらないものね」

「・・・・・・うるせえ黙ってろ」

「あはは・・・・・・由希ちゃんのアバターは?」


 空笑いする立川が遊梨浜に水を向ける。

 遊梨浜が固まった。


「・・・・・・は? あたし? どうしてあんたなんかに言わないといけないの?」


 じんわりと頬を染め、ぷいっと明後日の方を向く。


「それぐらい自分で調べなさい」

 

 遊梨浜がこちらを向いていないのを良いことに何をするつもりなのか知らないが、米五がそろりそろりと遊梨浜に背後から近づいていく。碌なことじゃないだろうが。


「いや無理だし。アホか」


 わきわきとした米五の両手がゆっくりと背後から遊梨浜の胸部に近づいていく。

 ・・・・・・おい、まさか。


「は? んひゃぅっ!?」

「ぐふっ!」


 俺を睨むと同時にガッシィィと遊梨浜の豊満なバストが米五に鷲掴みにされ、遊梨浜の口から普段の声からは全く想像できない甲高い声が飛び出す。あと、ほぼ同時に立川の鼻からブッファアと鼻血が吹き出した。


「おっきいなぁ、遊梨浜さんのおっぱいは。で、遊梨浜さんのアバターはどんななのかな?」

「なっ、なっ、なっ、なっ・・・・・・!」


 遊梨浜の乳をにやにやと揉み続ける米五に、顔を真っ赤に染めていく遊梨浜。それと鼻にあてがったティッシュペーパーを瞬時に赤く染め上げる立川。俺は普段のクールな感じの遊梨浜が全力で恥ずかしがっているのを見て、こう、グッとくるものに感心していた。これはギャップにより生じたかわいさで、倉吉初花が胸を揉まれて顔を赤くしても生じない類いのかわいさだ。勉強になる。

 唐突に遊梨浜が立ち上がり、乳が米五の手から解放された。

 そして潤んだ瞳でキッ、と米五を睨みつけると回れ右して教室の出口へ足を踏み出す。


「・・・・・・」


 と思うと、突然足を止め、しばし停止した後にこちらに振り向きスタスタと戻ってくると椅子に腰を下ろし腕を組んだ。

 そして足を組みきれいな黒髪をかき上げ、


「・・・・・・ふん」


 鼻を鳴らす。

 顔は真っ赤なままで。


「・・・・・・」

「ブファッ!」

「あははっ!」


 俺は思わずジト目を向け、立川は鼻血を大量に吹き出し、米五は声を上げて笑う。


「・・・・・・なによ」

「・・・・・・なんもねえよ」


 バカにしてやろうとも思ったが、俺はそのよく分からないプライドに敬意を表しふいと顔を背けて矛を収めてやった。

 ・・・・・・まあ、でも、あれだよな。認めるのは癪だがこういう天然物のかわいさには、倉吉初花のかわいさはまだまだ敵わないよな。

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