4話 全てのイケメンはゲロを吐くことと無縁ではいられない
次の週。
本当にどうしようかな・・・・・・。
手作りクッキーを食べさせたところアルフがゲロを吐き、それどころか唇に触っただけでアルフが絶頂したことについて俺は悩んでいた。
スキルについては、まあ、あれが初見だったとはいえ、別にメシマズヒロインとして振る舞うのも縛りプレイと思えば楽しいから全く構わないのだ。
俺が悩んでいるのは絶頂についてである。
アルフが盛大にズボンを貫通して射精するのを間近で見るまでは、しばらくはアルフをメインで攻略していこうと考えていたのだがさすがに気持ち悪くて引いてしまった。
あの爽やかイケメン、アルフが唇に触れられただけで絶頂するような人間だとはどうしても思えなくて、改めて今朝確認してみたのだが。
『あ、初花ちゃん、お、おはよう。ごめんねこんなところに呼び出して』
『おはよう! ううん、全然! それで、話って?』
『・・・・・・その、先週は変なところ見せて、ごめんね』
『あ、う、うん! だいじょうぶ! 気にしないで! ・・・・・・えいっ!』
『あっ・・・・・・んほぉぉぉぉぉおおお!』
『うわ・・・・・・』
やはり気のせいでも何でもなかったようで、股間を怒張させたアルフは人気のない校舎裏で精液と嬌声を撒き散らした。
だからといって育山のクソ野郎を再びメインに据える気分でもないし。
まあ、そもそもアルフ絶頂びっくり衝撃映像のせいで誰も攻略する気は起きないのだが。
はぁ・・・・・・。
そうこうしているうちに午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴ったので、昼食を携え食堂へ。今は一人になりたい気分だった。
食堂に着くと適当な席を探して腰を下ろしパンをほおばる。
楽しそうな生徒たちを見ながらほけーっとしていると、誰かが正面に腰を下ろした。
「あれ、今日はお弁当じゃないんだね」
「あ、う、うん。今日は少し寝坊しちゃったから時間なくて」
適当な事を言ってなにやらにやにや笑う無子を誤魔化す。
今までは、『あーん』などの昼食イベントに備えてわざわざ弁当を毎朝作っていたのだが、朝から誰かを攻略するやる気がなかったので今日は作らずに登校中に適当なパンを買ったのである。
というか、なんでこいつ来たんだよ。今は倉吉初花でいることも面倒なんだが。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「何か悩み事かい?」
「え? あ、う、ううん、何もな・・・・・・まあ、ね」
俺の作ったキャラクター、倉吉初花なら必ず相談する。
「ふーん? どうしたの?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・無子ちゃんって気になってる人とかいる?」
俺はぽつりとこぼす。
「うーん、そうだなー」
「って、わたし何言ってるんだろう!? ごめん今のやっぱりなしで・・・・・・って、え?」
え?
てっきり困ったように流されると思ってかわいいテンプレ反応を返したのだが、無子が真剣に考えだしたのでびっくりしてしまった。
全く恋バナなんてするつもりがなかったので、どういうスタンスを取るべきか必死に考えを巡らしていると無子が口角を吊り上げた。
「私は育山くんとかバルグくんとかかっこいいと思うけどなぁ」
「へ、へぇ・・・・・・そ、そうなんだ」
頬が思わず引き攣る。
こいつもその二人を狙ってんのかよ・・・・・・。
そんな俺に無子は笑みを深める。
「気になる人でも出来たのかい?」
「うーんと・・・・・・」
「うん」
「・・・・・・実はそれが悩んでいることというか」
「へぇ? というと?」
「実は気になってる人・・・・・・っていうのかな。が、二人いて」
「浮ついてるみたいでヤだなって?」
「・・・・・・うん。まあ・・・・・・ね」
「なるほどねぇ。・・・・・・ちなみに、それは育山くんとバルグくんだったりする?」
「えぇっ!?」
俺は顔をカッと染める。
まあ、俺が関わっている男なんてその二人だけだから当てられて当然なのだが。
「ふーん。そっかそっか」
「ぜ、絶対に誰にも言わないでね!?」
「えー、どうしよっかなー」とからかうように笑みを浮かべる無子に俺は「ぜ、ぜぜ絶対だよ!?」と目を回す。
「まぁ、でも。それならどっちか片方に決めないといけないね」
「うん・・・・・・」
「ならきっと、彼ら二人を気になり始めた初めの気持ちを思い出すといいんじゃないかな」
「はじめのきもち・・・・・・」
その台詞は倉吉初花としてではなく、育山とアルフを攻略しようとしている俺として大切な気がして繰り返してみる。
初めの気持ち、ねぇ・・・・・・。
しばらく会話の生まれない空間でパンをほおばりながら考えていると、用事があるとかで無子は先に席を立ってどこかに行ってしまった。
・・・・・・あいつは何をしに来たんだ。昼食を食べていたわけでもなかったし。したことと言えば俺との会話だけだが。それが目的だとしたら俺のこと好きすぎである。
昼食を終えた俺は今後の方針の輪郭をゆっくり明確にしつつ、ふらふらと校舎内を歩く。この前の学校探索の続きである。結局この前はアルフと遭遇したせいで図書室しか見れなかったからな。
すると前方から育山が歩いてきた。
俺はまだ怒っているという設定なのでぷいと顔を背ける。
「おい」
ある程度近づいたところで珍しく育山が話しかけてきたが無視である。
「おい、あんただよ、あんた。倉吉さん」
「・・・・・・」
こいつ、俺のことさん付けで呼ぶのか・・・・・・。初めて呼ばれたから初めて知った。
微妙に反応したくなりつつも無視を決め込む。
「チッ」
「・・・・・・」
無視しただけで舌打ちをしてきた育山にいらっときたので、そのまますれ違――
ぐいっ。
「わわっ!?」
俺の右腕が力強く引かれ、そのまま壁に押し付けられる。そして俺は育山の影にすっぽり覆われる。育山の右腕は俺の左上の壁に寄りかかっており、その顔がすぐ目の前にある。
いわゆる壁ドンであった。
「おい」
「な、ななななななにかなっ!?」
どくどくどくどく。
激しく心臓が脈打つ。
上手く思考がまとまらない。
「なんで無視した」
「い、いいいいいいいいつも育山くんも無視してるよね!?」
「ふん。それはあんたの話題が意味を持たないからだ」
「んなっ!?」
「まあいい。ともかく口を閉じてろ。ぶれると面倒だ」
育山は低音ヴォイスで言うと顔を近付けてくる。
「え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ!?」
「チッ。口を閉じろと言っているだろう。聞こえなかったのか?」
どくどくどくどくどくどく!
鼓動が止まない。
育山の顔の接近が止まらない。
非力な俺に逃げ場はない。
こ、こいつがこんなに強引な奴だったとは・・・・・・! こいつはとっくのとうに俺に惚れていたんだな! もう少し警戒しておくべきだった!
腹をくくった俺はキスに備えて目をつむる。
どくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどくどく!
・・・・・・。
「・・・・・・あれ?」
いつまで経ってもその時は訪れず、やがて俺の視界を暗くしていた影が離れた。
「ふん。世話の焼ける奴だ」
聞こえてきた育山の声に俺はそろりそろりと目を開ける。
育山が糸くずを掲げていた。
「・・・・・・身嗜みぐらいちゃんとしろ。前髪に付いていたぞ」
「え・・・・・・?」
「ふん」
鼓動の収まらない俺にほんの少し頬の染まっている気のする育山は鼻を鳴らし、糸くずをぽいっと放ると回れ右した。
ずるっ。
育山の足が勢い余ってもう半周するとそのままバランスを崩し俺の方に倒れてきた。
「!?」
「うわっ!?」
どっしーん。
「いたたたたた・・・・・・」
強く床に打ち付けた腰をさする。
「(ふがふが)」
「ひゃうっ!?」
「(もぞもぞ)」
「んあっ!?」
「(もみもみ)」
「んんんんんんんんんんんんんんんっ!?」
俺の口から様々な嬌声が漏れ出す。
犯人は全てスカートの中でパンツ越しに局部に鼻を押し付け呼吸を繰り返し、それだけでは飽き足らず俺の尻を揉みしだいている奴である。
収まらない先ほどの恐怖と驚きに起因するドキドキが本当に恋をしているみたいで、悔しくなりながら、スカートの中から這い出てくるクソ野郎を見守る。
奴はゆっくりとスカートから這い出てきたかと思うと、何事もなかったかのように身体を起こしいつかのようにズボンの裾をぱんぱんと払う。
そして今度は滑らずに回れ右を成功させた。
奴は背中越しに言葉を寄越す。
「気をつけろ」
「気をつけるのはお前だぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!?」
無性に腹が立った俺はポケットに忍ばせていた手作りクッキーをひっつかみ背後から奴の口の中にぶち込む。
「もがっ・・・・・・!? ウォェェェェェェェェェェェェェェェェェェェエエエエエエエっ!?」
びちゃびちゃびちゃ!
俺はこの瞬間に自身の内心に気づいた。
俺はこいつが俺という超絶美少女に全くデレる素振りを見せないのが悔しいのだと!
俺は!
お前を!
攻略する!
絶対に!
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