1話 おっぱいもみもみラッキースケベ

 首尾よくモブ男を攻略した俺は次の獲物を探していた

 俺の目標はこの学校に所属する性的指向が女である全生徒から告白されることだから、のんびりしている暇など少しもないのだ。

 席に着いた俺は教室をぐるりと見回し、次の相手を見繕う。

 いかにもな陽キャから、先ほどのモブ男のような陰キャまでより取りみどり。色々なタイプの人間がいた方が腕が鳴るというものである。

 まあそれはともかく、入学式後初のホームルームということで教室内に会話はほとんど生じていないし立ち歩いている者となると一人もいない。

 ならば、悪目立ちするのは現時点で賢い選択とは言えないのでともかく近所から攻めていこうと思う。

 そういうわけで俺は左隣をちらりとうかがう。

 そこにいるのは頬杖を突き窓の外をぼんやりと眺める超イケメン。

 長いまつげに、切れ長の瞳、すっと通る鼻梁に薄い唇。頬を支える拳からかすかに見える指は女の子みたいにきれいで細い。

 青空に浮かぶ白い雲をぼんやりと眺めるその姿は退屈そうで、けれど思わず見入ってしまうような魅力がある。

 俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 ・・・・・・次はこいつだな。

 騒がしい俺と物静かなこいつ。

 夕日をバックに笑い合う二人の男女は理想のつがいで誰もがうらやむ。

 ・・・・・・まあ、付き合わないんだけどな。

 浮かんだそんなビジョンに思わずにやけつつ俺は口をひらく。


「あ、あのー」


 そろそろと声をかけるとそいつはちらりと視線だけをこちらに寄越す。


「わ、わたし、倉吉初花くらよしいちかっていうんだけど・・・・・・」

「・・・・・・ああ、そう。で?」


 そいつは一切表情を変えず俺に用件を促してくる。

 ・・・・・・なるほどな。自己紹介を返してこない当たり、こいつも先ほどのモブ男と同様クソほど無礼だが、こいつはいわゆる『オレ様系』キャラクターなのだろう。

 瞳からハイライトが消え失せている事から察するにおそらく重い過去を背負っていて、それをメインヒロイン(俺)が解決することにより交際に発展するというパターンだ。それによりこいつの灰色だった人生は色を取り戻し、幸せになるのだ。

 一人の人間の人生に良い方向へ強い影響を与える。

 これも攻略の醍醐味だな。

 まあ、交際を申し込んできたら振ってやるんだけどな。それでもこいつの人生が色を取り戻すことは変わりないだろうし問題はないだろう。失恋を乗り越えて強く生きるんだぞ。


「え、えと・・・・・・名前、聞いてもいいかな?」

「あ?」

「え?」

「どうしてオレがそんなことしなくちゃならないんだ」


 ・・・・・・なんだこいつは。偏屈すぎる。

オレ様系にも限度があると思うんだが?


「え、えっと・・・・・・これから隣同士だから仲良くしたいなって思って・・・・・・?」

「そうじゃない」

「へ?」

「オレが言う必要がどこにあるんだ? 自分で調べればいい」

「うん?」


 貴様の名前はウィキペディアにでも載っているのか?


「ふん」

「・・・・・・あはは」


 鼻を鳴らして再び窓の外に視線を戻したそいつに、愛想笑いしか返せない。

 自分で調べろって何ですか?

 しかもそれで会話を終えるだと?

 うん、こいつクソだわ。間違いない。


「ね、ねね」


 だがしかし、俺は再度話しかける。

 最終的にはこいつも攻略するつもりだし、こういう輩はこつこつとした地道な積み重ねが大事なのだ。

 視線だけを寄越したこいつに、俺はやや体を寄せて片手を口許に添えると秘密めかして続ける。先ほどのモブ男の例を見れば分かるようにこれは大変に強力な技である。俺の必殺技の一つ。


「じゃあ、あなたのことなんて呼べばいいかな? あだ名とかあったりする?」


 今度はこちらに視線すらよこさない。


「ふん、俺にあだ名なんてものはない。名字でも名前でも好きに呼ベ」

「そ、そっか・・・・・・」


 だから俺はそもそもお前の名前を知らないんだよなぁ。


「あ、わたしのことも好きに呼んでね。わたしもあなたと同じであだ名はないんだけど」

「・・・・・・」


 やはり返答はないか。

 ふむ、困ったな。

 このままだといくら俺が話しかけようとも独り言と大差ない。まあ、『こんな愛想の悪いオレにも話しかけてくれるなんて気があるのか?』みたいなことを考えさせられる可能性はあるがこのクソ野郎の性格からすると『ただのうるさい奴』と認定される可能性もかなりある。

 何も方策が現状思いつかない以上一度出直すべきか。

 クソ野郎の言ったとおり名簿なりで名前を調べて呼んでやれば少なくとも俺が興味を持っていることは伝わるだろう。


「あっ」


 などと考えているとクソ野郎が立ち上がり、同時に奴のシャーペンが俺の足下に向かって転がり落ちてきた。

 俺はシグナル伝達速度をリミットブレイクするぐらいの気持ちでそれに反応し腕を伸ばしたのだがそれよりもクソ野郎の腕が届く方がわずかに早い。

 チッ! 大チャンスを逃したか・・・・・・!

 俺が次に取るべき行動の最適解を全力で探していると、唐突にクソ野郎がずるっと足をもつれさせ、バランスを崩した。

 俺の方に。


「チッ・・・・・・!?」

「わわっ!?」


 どっしーん。


「いたたたた、あ、頭が・・・・・・って、クソ野郎くんだ、だいじょ・・・・・・ふぇ?」

「・・・・・・」


 自分のことより他者を真っ先に気遣う女の子を装いながら目を開けると、クソ野郎と目が合った。

 つまりクソ野郎が俺に覆い被さっていた。


「(もみもみ)」

「ひゃぅっ!?」


 胸を揉みしだきながら。

 こ、こ、これはラッキースケベか!? まさかこんなものもプログラムされているとは!

 まあそれはともかくこれはチャンスだ・・・・・・!

 俺は顔面をみるみるうちに赤く染めていく。


「なっ、なっ、なっ・・・・・・!」

「・・・・・・最悪」


 そんな俺を気にする素振りも見せず、クソ野郎は最後に俺の胸をもみっと一揉みするとのっそりと身体を起こし、ズボンをぱんぱんとはたく。


「く、クソ野郎くんの・・・・・・!」

「は? あんた今なんて言った?」


 耳まで真っ赤にした俺は全身をぷるぷると震えさせながら、目をこんなの><にして顔をキッと上げ・・・・・・!


「ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!?」


 渾身のビンタを繰り出す・・・・・・!


「ちょっ!?」


 しかし、避けられてしまった!

 かくなる上は・・・・・・!


「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええ! おっぱい揉まれちゃったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお! もうお嫁さんに行けないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!」


 叫びながら逃げる!

 クソ! 今のビンタを当ててボコボコにするのが模範的ヒロインなのに! 俺もまだまだ修行が足りないな!

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