メインヒロインは俺ですが? ~超かわいい俺が偏屈イケメンとド変態イケメンを攻略する~

にょーん

ぷろろーぐ☆ 超かわいい俺とモブ男

 桜舞う四月上旬。


 入学式を終えた俺は教室へと向かう道すがら隣を歩いているモブ男に話しかけていた。


「あ、あのっ」

「な、ななななななななななんでせうか!?」


 俺は少し背伸びしてやたらとどもるモブ男の耳に近づき秘密めかしてぽしょぽしょと話しかける。


「こ、この列って一年一組の列であってるかな?」

「あ、合ってまふ!」


 上がっていたつま先をとん、と落とし、胸に手を添えほわほわ笑顔でそっと息をつく。


「よかった~。違ってたらどうしようかと思ったよ~」


 隣のモブ男の心臓がどくんと跳ねたのが分かった。


「にゅ、入学式の後、ど、どこか行っていたのでござるか?」


 意味不明な語尾で問うてくるモブ男に俺は一瞬きょとんとした顔を見せる。それからすっと目をそらす。


「・・・・・・ちょ、ちょっとね」

「ど、どこへ?」

「・・・・・・言わない」


 ようやくこちらへよこされた視線から更に逃れるように、俺は首を回し汗を垂らす。


「・・・・・・きみの質問に答えてあげたのは、ぼ、僕なんだけどなぁ。僕がいなかったらきみは困っていただろうなぁ」 

 

モブ男がチラッとこちらを見てきた。

 予想通りのテンプレ主人公的反応。やはりこいつはマンガやラノベに憧れて高校生活にラブコメを夢見る少年だったようだ。俺をヒロインだと認識したらしい。


「う・・・・・・」


 だから俺もテンプレを返す。

 冷や汗の量を増大させた俺をモブ男がじーっと下手くそなジト目で見てくる。お前のそれはジト目じゃなくて糸目だ。出直してこい。

 俺は再度ほんの少し背伸びをしてモブ男の耳に口を近付ける。


「だ、誰にも言わないでね?」

「ど、どうしよっかなぁ~」


 モブ男の心臓の鼓動が早まってるのが分かるし、頬も露骨に染まってるし、ときおりこちらに向けられる視線がいやらしい。

 0点。

 お前はラブコメの主人公に相応しくない。


「むぅ」

 俺の頬が可愛らしく膨れる。


「う、うそうそ。絶対誰にも言わないから」

「誓って?」

「うん、誓って」

「絶対だよ?」

「分かってるって」


 俺は頬を淡く染めて口をゆっくり開く。


「ちらっと見えたマ・・・・・・お母さんのところに行ってたの」

「っ!?」


 はい、ずっきゅーん。

 モブ男はせわしなく前髪をいじり、ちらちらちらちらとこちらに視線を向けてくる。

 男を攻略するRTA世界記録更新したのでは?

 明らかに俺に惚れた様子のモブ男に機嫌をよくした俺は鼻歌はみんぐ☆

 ふんふんふふーん♪ と教室にたどり着いた。


「ね、ねえ」

「ん? どうかした?」


 それぞれの席に戻ろうかというタイミングで足を止めたモブ男に俺は後ろ手に組んでひらりと振り向きこてんと首をかしげる。


「よ、よかったらきみの名前を教えてもらってもいいかな?」 


まずはてめえが名乗るのが礼儀だろうがだからてめえはモブなんだ。


「んーそうだなー」


 おとがいに人差し指を添え俺は悩んでいる風を装う。


「・・・・・・(ごくり)」


 息をのむモブ男に俺はいたずらを思いついたように小悪魔顔で距離を詰める。

 そしてくちびるに人差し指を添えて、ぱちりと片目をつむる。


「ないしょ☆」


 ずっきゅーん。

 貴様の灰色の高校生活のピークが今日でないことを俺は祈ろう。

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