行ってみようかな
5月に入り、少しずつ夏の香りがするころ。初夏の陽気の下、ブレザーを脱ぎ、Yシャツをパタパタする。テニス部の部活が終わり、日も下がっている帰り道。汗ばんでいる私のポケットが揺れる。手を突っ込むと、小刻みに揺れるスマホに当たった。うちの中学校はスマホの学校内使用は禁止だが、登下校の使用や持ち込みはOKだ。通知着信が入ってるけど、LINE友達が少ない私に送ってくる人はなかなかいないはず。誰だろ?
通知バーには、可愛いウサギのアイコンと共に、“♥AYAKA♥”というネームが。
「?」
LINE交換してから、共通の趣味である読書の話や、本の貸し借りの話はしている。そういう系の話かな、と思っていたが、電車の待ち時間でささっと見てみると、
“今度の日曜日、遊びに行かない?”
というお誘いだった。こういうのを矢萩ちゃんからもらうのは初めてで驚いたので、
“考えさせて”
とだけ答えた。
“OK”
どんな感情で打ったのか分からない返信が来たところで、スマホの電源を切り、乱暴にポケットへ突っ込む。
「浮かない顔してるけど、どうしたの?」
聞き覚えのある声で、はっとする。右をみると、いつのまにか隣に由美夏がいてビックリ。
「うわあ!由美夏ちゃん!?どうしたの?!」
「どうしたの?はこっちのセリフだよ。今、めちゃ変な顔してるよ、晴海ちゃん。」
「えっ!」
「…………彩花ちゃんと何かあった?」
由美夏は、私と矢萩ちゃん、そして、拓真の一連の出来事を全部知っている。学校の中でただ一人の、この事での理解者。
「うん…………。実はさ………」
かくかくしかじか。ふむふむふむふむ。
「…………なるほど。それで、気持ちが複雑ってことね。友達としては行きたい、でも、拓真くんの元カノとなると未だに抵抗がある、と。」
うう、心が痛い…………。
「うん…………なんかまだ、気になってるみたいで。」
「拓真くんのこと?」
「い!いや、違うよー。矢萩ちゃんのこと。なんでだろうね。」
「っていうか、なんで、名字にちゃん付けなの?彩花ちゃん、じゃないの?」
「それも、なんか、名前で呼べないっていうか。なんていうか。」
そうドギマギしていると、はぁっ、と盛大なため息を由美夏につかれた。
「まあ、私には分からないんだけどね。その気持ち。経験したことないから、同性にコクられるなんて。でも、行ってみたら?彩花ちゃんってほんとにいい子なんでしょ?友達としてさ。自分と合うところが見つかるかもしれないんだし。」
そうだよね、友達としている分にはボッチの私としてはとても嬉しいし。
「うん、じゃあ、行ってみようかな。ありがと由美夏ちゃん。」
由美夏は、今日も今日とて無表情だったけど、少し照れてるようにも見えた。
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