ある日のこと
「晴海ちゃーん!」
次の日、教室に入るなり、水のせせらぎのような澄んだ声が聞こえたかと思ったら、私に駆けてきた矢萩ちゃん。
「今週末、付き合ってくれてありがとう!楽しみだなあ。ね、ね、どこ行きたい?」
はしゃいでる彼女の姿は見慣れないもので、不覚にもキュンとしてしまった。いや、これは、単に、いつも見れないから。だから、少しびっくりした。
「う、ん、どこで大丈夫だよ、私は。」
「うー、そーゆーのは1番困るのですよ、晴海ちゃん?じゃあ、私は案があるんだけど、いい?」
「あ、あるんだ。」
「あるよ!映画!見に行きたい!!あのねあのね…………」
矢萩ちゃんが見たいという映画の説明が始まったところで、私はふと教室の隅のほうで男子と話している拓真の視線を感じた。
私が思うに、拓真はまだ矢萩ちゃんが好きだ。いつも目で追っちゃってるし、誰でも分かるくらい熱い視線を送っているからである。私はこの2人に何があって別れたのかは知らないが、100%!拓真は矢萩ちゃんがまだ好き。未練がまし。ほんと、笑っちゃうよね。
「……………ーい。おーい!晴海ちゃん聞いてるう!?」
「あ、ごめ」
「もうっ!ひどい!」
おさげを揺らして怒る姿は、やはり男子から見たら萌え必至なのだろう。だって、女子の私でも嫉妬しちゃうくらいだもの。最近、私はなんでこの子に好かれてるんだろ?と、疑問に思ってしまう。この子は、物好き、なのかな?
「ごめんごめん。また聞かせて?あ、LINEでも大丈夫だし。それに、その映画、最近CMでもやってるもんね!見てみるよ!」
キーンコーンカーンコーン
「おっと、席戻らなきゃ。晴海ちゃん、ありがとー!」
「はーい。」
そして、走って席に戻っていった彼女は、途中、拓真と肩をぶつけていたけど、矢萩ちゃんは特に何も反応しなかった。でも…………
拓真の方は、焦れったそうな瞳で、矢萩ちゃんを振り返っていた。
「なあ、小村さん。」
2時間目の直後、後ろから声をかけられたと思ったら拓真がぐったり机に突っ伏していた。
「ど、どどしたの!?」
え、死んでる?死んで……………る!?
「いや、死んでねえし。」
むくっと起き上がったの目は死んでいたけど。でもほんと、物思いにふけちゃって。どうしたの?
「小村さんって、最近、彩花と仲良いよな。」
「う、うん。そうだね。」
「なんで?」
「なんでとは?」
いやいや、そんな見つめないで。目が怖いよ。殺される…………?そんなに彩花ちゃんが気になるなら自分で声かければいいのに。
「いや…………。」
「?」
「彩花、俺のことなんか言ってなかった?女子の間でそういう話しないの………?」
「しないよ。何?気になるんだったら、自分で声かけなよ。私はカンケーないでしょ。」
そう私が叩きつけると、また拓真は机に突っ伏し、「そうだよな」と呟いていた。
…………………矢萩ちゃん、可哀想。
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