第39話 懸念材料

記者会見を終えた次の日、弁護士の宇留嶋は留置所にいる柵木ビル管理事務所の総務部長、鍛治田益生の面会に行った。


暫くぶりに会った鍛治田は少し痩せていたが、憑き物が落ちたようなすっきりとした表情をしていた。


「おはようございます、鍛治田さん。体調は大丈夫ですか?」


「はい。おかげさまで。すこぶる調子がいいです」


落ち着いた口調で、鍛治田が言葉を返してきた。本当に元気そうだ。


「それは、よかった。何か困ったことがあったら、すぐに言ってくださいね」


「はい。ありがとうございます」


「今日、ここに来たのは、昨日、ホテルで記者会見を行ったことを鍛治田さんにお伝えしようと思ったからです。柵木社長は鍛治田さんの告白通り、皆の前で話しました」


「本当ですか?」


「はい。批判の声もありますが、会見は概ね成功です」


「ありがとうございます。私もこれで安心して裁判が受けられます」


鍛治田は安堵の表情を浮かべながら言った。


「ところで、鍛治田さん。もう一度確認したいのですが、鍛治田さん以外で登野城警備保障の件を知っていた人はいないんですよね?」


「はい。いません。あっ、でも……」


「どうしました?」


「実は喫茶店で天川に脅されていた所を秘書の石間さんに見られたんです。後からあの人は誰かと聞かれたのですが、会話は聞かれていないと思ったので天川さんという登野城警備保障の営業部長だと正直に答えました」


「聞かれたのは、それだけですか?」


「はい。それだけです」


鍛治田の表情を見る限り、嘘をついている様子は感じられなかった。


「それは重則さんの写真が会社に届く前の出来事ですか?」


「そうです」


「そうですか……分かりました。では、今日のところはこれで失礼いたします。何か困ったことがございましたら、すぐにご連絡ください」


「ありがとうございます」


「それでは失礼いたします」


鍛治田に別れを言い、宇留嶋は接見室を出た。




接見室を出た宇留嶋は、ポケットからスマートフォンを取り出し、日沖探偵事務所の上井に電話をかけた。


「もしもし」


上井はすぐに電話に出た。


「もしもし、上井さん。急ぎの依頼があるのですが、今、大丈夫ですか?」


「ああ、問題ない。要件は?」


「天川と秘書の石間美樹子に過去接点がなかったか、調べてもらえませんか?」


「何か気になることがあったのか?」


「はい。今、鍛治田さんとの面会を終えた所なのですが、鍛治田さんは以前、喫茶店で天川に脅されていた所を彼女に見られ、後からそのことをたずねられたそうなんです」


「脅されていることを彼女に話したのか?」


「いえ。鍛治田さんは天川の名前と身分を話しただけです」


「なら、問題ないだろう」


「ええ。この出来事自体に問題はありません。問題はその後です。脅すには絶妙のタイミングで重則さんの写真が会社に届き、しかも監視カメラを上手く避けていました」


「犯人側に都合が良すぎる」


上井も宇留嶋と同意見だった。


「そうです」


「分かった。そういうことならすぐに調べる」


「よろしくお願いします」


「それじゃな」


そう言うと、上井はすぐに電話を切った。

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