第36話 駆け引き

登野城警備保障に家宅捜索を行った次の日、友枝は朝から先日逮捕した登野城の社員、片山道夫の取り調べを行っていた。


「片山さん。そろそろ何か話してもらえませんか?」


友枝が何を聞いても、片山は何も話さなかった。


ヤクザが仲間を警察に売らないことは分かっていた。


その後が怖いからだ。


そこで友枝は落とし方を変えることにした。


「昨日、登野城警備保障と光塚組の事務所を家宅捜索しました」


顔をかいていた片山の手が止まった。


友枝は話を続けた。


「すでに証拠は大方揃っているので、両者とも解散することになると思います。ですから、もうあなたを縛るものは何も有りませんよ」


片山は再び手を動かし、顔をかき始めた。


ここが攻め時だ。


「そうですか。分かりました。では、私は記者会見があるので、これで失礼します。ああ、そうそう。記者会見の時、私はあなたが捜査にとても協力的だったと皆に伝えておきますね」


「はあ」


片山が初めて友枝の言葉に反応した。


「えっ? だって、あなたが全て話してくれたと公の場で言ったら、みな我々に協力的になるでしょう? 我々もその方が楽ですから」


「お前、きたないぞ」


片山から大変語気の強い言葉が返ってきた。もう一押しだ。


「片山さん。あなたは黙って司法取引に応じればいいんです。そうすれば、私は公の場であなたのことを話す必要がなくなりますし、あなたは刑期が短くなる。悪い話じゃないと思いますよ?」


友枝は諭すように片山に言った。


すると、彼の表情から段々と怒りの色が消えて行った。


片山はイスに座り直し、口を開いた。


「分かった。そのかわりマスコミの前で話すのは止めてくれ」


「もちろんです。お約束します」


友枝は片山の顔をしっかり見て答えた。




その頃、上井たち日沖探偵事務所のメンバーは、事務所のテレビで事件の成り行きを見守っていた。


「鍛治田部長の話、出てますね」


上井の隣に座っている冨田が口を開いた。


「ああ。でもこの感じだと、トカゲの尻尾切りだとか言われて、社長は叩かれるだろうな」


上井は素直な感想を述べた。


「マスコミも家に来るし、いやね」


早希が本当に嫌そうな表情を作り言った。


「そこは多分、宇留嶋弁護士がすでに手を打っているはずだ。社長がしばらくホテルで暮らせるようにな」


「ああ。確かに天川の行方もまだ分かってないですし、その方がいいですね」


上井の話に、理栄も同調した。


「でも、まさか、天川が事実上のオーナーとは思いませんでしたね」


冨田はテレビから上井の方に視線を移して言った。


「だからこそ、柵木ビルの関係者が奴に命を狙われる可能性がある。メンツを完全に潰されたからな」


「何もなければいいですね」


「俺もそう願っている」


上井は冨田にそう言葉を返し、コーヒーを一口、口に含んだ。

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