第34話 完落ち

警視庁生活安全部保安課の友枝典史は、闇カジノで逮捕したプログラマーの寺越文和の事情聴取を再開した。


「おはようございます、友枝さん。今日も朝からご苦労様です」


寺越が楽しそうな表情を浮かべながら話しかけてきた。


「ええ。おはようございます、寺越さん」


友枝は寺越の前に座り、言葉を返した。


「何かいいことでもあったんですか?」


寺越が聞いて来た。


「そう感じます?」


「ええ」


「昨日、登野城警備保障の片山道夫を、現行犯で逮捕したんですよ」


寺越の表情が固まった。友枝は言葉を続けた。


「丁度、ホームゲートウェイにマルウェアを仕込んだ所を捕まえたんです。いやー、寺越さん。うちのIT担当が褒めていましたよ。すばらしいプログラムの腕だと」


そこまで話すと、友枝は話すのを止めて寺越の表情をうかがった。


「僕がそれを書いたっていう証拠、どこにあるんです?」


まだ余裕があるという表情を作りながら、寺越が言った。


「違うのですか?」


「ええ」


「では、この話はこれでおしまいです」


そう言って、友枝はイスから立ち上がった。


「帰っていいんですか?」


「ええ。あなたが認めないなら我々は片山と司法取引します。それに仮にあなたが遺体となって見つかったたら、その時は堂々と光塚組に踏み込めますから」


「えっ?」


「だって、そうでしょう? 光塚組があなたを放っておくと思ったんですか? 私は確実に消されると思っていましたよ。あっ、でもあなたじゃないんでしたね。マルウェアを作ったの。抜かれた情報がたまたまあなたの家に集まっていただけでしたね。失礼しました。では、私はこれで」


「待ってください」


ドアから出ようとした友枝を寺越が呼び止めた。


「何です?」


「全部話します。ですから俺を守ってください」


寺越は深刻な表情を浮かべながら言った。




寺越の事情聴取を終え、友枝は休憩室に向かった。


そこでいつもの甘い缶コーヒーを買い、イスに座って休んでいると、部下の吉原哲がやって来た。


「お疲れ様です」


吉原が声をかけて来た。


「おう」


「さすが、友枝係長。見事に落としましたね」


「まあな。そっちはどうだ?」


「はい。片山はまだ口を割りません。ですが証拠は決定的なんで、フダ(捜索差押令状)は取れました。いつでも登野城に入れます」


「そうか。マル暴(組織犯罪対策部)の方にも話は通したか?」


「はい。そこは部長が全てやってくれました」


「じゃあ、登野城と光塚組、両方いっぺんにガサ入れできるんだな。よし。証拠を処分される前に、すぐにやるぞ」


友枝は立ち上がって、コーヒーを一気に飲み干した。

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