第33話 犯人逮捕 その2

1階に着きエレベーターを降りた宇留嶋は、ロビーを出てビルの裏門に向かって歩いて行った。


そして、警備員室の前まで来ると、すぐさま目の前のドアをノックした。


「はい」


中から井田の声が聞こえてきた。


「弁護士の宇留嶋です。少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


「どうぞ」


井田の声とともにドアが開いた。


「失礼します」


宇留嶋が中に入ると、そこには井田の他、舘もいた。


こっちとしては好都合だ。


「井田さんと舘さんですね。先程はきちんとごあいさつもせず、申し訳ございませんでした。私、弁護士をしている宇留嶋司と申します」


そう言って、宇留嶋は二人に名刺を手渡した。


「どうも。ご苦労様です」


宇留嶋のあいさつに井田は少し疲れた表情を浮かべながら答え、舘は軽く頭だけ下げた。


「今後、片山氏の裁判をするにあたって、お二人からもあらかじめ話を聞いておかなくてはならないのですが、よろしいでしょうか?」


「はい」


井田だけが返事をした。


「あなた方は以前、明坂ネットセキュリティーサービスの人たちが来た時、言い争っていましたよね? それはあなた達も片山氏がやっていた犯罪に協力していて、それが原因で揉めていたのですか?」


「いいえ、違います。私たちは片山が何をやっていたか全く知りませんでした」


井田がすぐに否定した。


「では、なぜ、言い争っていたのですか?」


「それは……」


井田はそれ以上、言葉を繋ぐことが出来なかった。


「それは、俺が盗みを働いていたからです」


突然、舘が口を開いた。


「井田さんに会社の備品をくすねていたことが見つかり、注意されたんです」


「舘さん。そういう小さなことから犯罪に手を染めて行き、最終的に塀の中へ落ちた人間を私は何人も見て来ました。ですから、これを機会につまらない盗みは金輪際止めてください」


宇留嶋の言葉に対し、舘はただ不貞腐れた顔をしただけだった。


「いい加減にしないか」


隣にいた井田が、突然激昂して声を上げた。それは宇留嶋もビビるほどの迫力だった。


「お前はまだやり直せるって、いつも言っているだろう? どうして、そう素直になれないんだ」


あまりの井田の迫力に、舘はかなり怯えた様子だった。


「いいか。もうやめるんだぞ」


「はい」


舘はビビりながらも、今度はきちんと返事した。


「舘さん。言い争いの件は私の方から上手く話をまとめておきます。それは私もあなたが立ち直れる人間だと信じているからです。これは僕からあなたへの信頼ですからね」


宇留嶋が諭すように言った。


「なぜ、あなたはそんなことが言えるのですか? 初対面なのに?」


舘が聞いてきた。


「それは、あなたに井田さんのような本気で心配してくれる人がいるからですよ。本当にクズな奴の所には、本気で心配してくれる人はいませんからね。そこは自信を持ってください」


「はい」


舘は反省の色を見せながら返事をした。どうやら言葉は彼の心に届いたようだ。


「私が確認しておきたかったことは以上です。何か困ったことがございましたら、名刺に書かれた番号にご連絡ください。お待ちしております」


「はい。ありがとうございます」


井田の後、今度は舘もきちんと返事をし、軽く頭を下げた。これでもう大丈夫だろう。


「それでは失礼いたします」


二人に別れを言い、宇留嶋は警備員室を後にした。

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