第28話 想定されていた取り調べ

警視庁生活安全部保安課の係長、友枝典史は、連日、闇カジノで逮捕したプログラマーの寺越文和(てらこし ふみかず)の取調べを行っていた。


「もう一度聞きます。なぜ、あなたは我々がカジノに踏み込んだと同時に、リモートで家のサーバーを破壊したんですか?」


「何度も言ってるじゃないですか。エロ動画を消去したかっただけですよ。マニアック過ぎて警察の皆さんに見られたくなかったんです」


申し訳なさそうな表情を作りながら、寺越が言った。


「その話はもう聞き飽きました。あなたは以前、ブラックジャックで不正を働いたにもかかわらず、再びカジノへの出入りを許されていました。それはあなたが光塚組のために働いていたからです。友枝さん。あなたは一体何を消去したんですか?」


友枝は少し強い口調で言った。


それに対し、寺越は最初すました顔をしていたが、顔を少し友枝の方に近づけ口を開いた。


「警視総監の不倫現場を撮った映像ですよ」


小声でそう言った後、寺越は楽しそうに笑いだした。




取調べの休憩時間、友枝は取調室を出て、近くにある休憩所に向かった。


そこで甘い缶コーヒーを買い、イスに座って体を休めた。


「ふう」


取調べの最中、寺越は一度も自分と光塚組を繋げるような話をしなかった。


このままだと賭博の罪しか問うことができない。


だが、あいつは間違いなく光塚組と深く関わっている。


それは一体なんなんだ? そしてそれをどうやって吐かせる?


「お疲れ様です」


顔を上げると、そこには部下の吉原哲がいた。


「おう」


「どうです、寺越は?」


「関係のないことをずっとしゃべり続けている」


「ああ。尋問に対抗する時に使う手ですね」


尋問の時、ダンマリを決め込む人間は素人だ。

訓練を受けた事がある、またはその知識がある人間はずっと話し続ける。

そうする事で相手の質問時間を削ったり、嘘の情報を提供したりして時間を稼ぐのである。


「そうだ。あいつは以前からこうなる事を想定して、対応策を用意していたんだ」


「厄介ですね」


「そっちはどうだ?」


「闇カジノでバカラのディーラーをやっていた若者は、柵木ビル管理事務所の社長息子でした」


「金をかけている方じゃないのか?」


友枝は吉原に聞き返した。


「はい。名前を柵木重則と言い、社長である柵木誠吾の次男です。なんでも人の運命は初めから決まっているのかどうか確かめたくて、そこでバイトしていたそうです」


「ついている男だな。あの日、働いていなくて」


「それが違うんですよ。あの日、柵木はビルの前まで来て、そのまま通り過ぎたんです。そして、その時、彼のすぐ近くにいたのが柵木ビルの顧問弁護士である宇留嶋弁護士です」


「どういうことだ?」


「分かりません。これから部下に話を聞きに行かせます。もう何も話さないよう手を打っているとは思いますが」


「分かった。そのまま進めてくれ。ちなみに一緒にいたのは父親の方か、それとも息子の方か?」


「息子の方です」


「そうか」


息子の方に嫌な思い出しかない友枝は、ますます疲労感が増してきた。

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