第27話 証拠を求めて その2
エレベーターに乗って1階に降り、上井たちは来た時と同じ道を通ってビルの裏口に向かった。
「いいかげん、こんなことは、もう止めるんだ」
入り口のあたりから、男の怒鳴り声が聞こえてきた。
上井は理栄の前に手をやり、彼女を静止させた。
「俺がやろうが止めまいが、何も変わりませんよ」
どうやら先ほど応対してくれた井田ともう一人、男が言い争っているようだった。
「そういうことじゃないんだ。人として……」
「俺に説教するの、止めてもらえませんか? あなただって人に褒められるような人生、送ってないでしょう?」
突然、ドアが開き、受付控室のドアから線の細い警備会社の制服を着た若い男が出てきた。
「お疲れ様です」
上井は軽く頭を下げ、男にあいさつした。
さりげなくネームプレートを見ると、舘明仁(たち あきひと)と書かれていた。
舘はばつが悪そうな表情を浮かべた後、黙って二人に頭を下げ、すぐにロビーの方へ向かって歩いて行った。
上井と理栄は一度お互い顔を見合わせ頷いた後、受付の方へ移動した。するとそこには、透明ガラスの向こう側で呆然としている井田の姿があった。
「お疲れ様です。仕事終わりました」
「あっ、はい。すいません。ご苦労様です」
上井の言葉を聞いて、井田がすぐに表情を戻した。
上井と理栄はネームプレートを外し、井田に返した。
「あのー、大丈夫ですか、井田さん?」
上井は井田にたずねた。
「えっ? あっ、はい。大丈夫です。すいません。見苦しいものをお見せしてしまって」
気まずそうな表情を浮かべながら、井田が答えた。
「何か問題でもあったんですか?」
「いえいえ。単なる内輪の話です。大丈夫です」
「そうですか。では、失礼いたします」
「はい。ご苦労様でした」
井田に別れを告げ、上井と理栄は裏玄関を出て、駐車場に向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます