第26話 証拠を求めて その1
三日後、上井は同僚の中里理栄を車に乗せ、鍛治田が指定した五反田にあるビルへ向かった。
「それじゃあ、最終確認するぞ。俺たちはまずビルの裏口に向かい、そこで許可をもらって中に入る。それから5階に行って原因を調べ、終わったらすぐに撤収。いいな」
上井は助手席に座っている理恵に作戦の確認をとった。
「了解。あと、私の方からも一つ。漏洩した情報を調べていて気が付いたんだけど、マルウェアが仕掛けられているのはサーバーではなくホームゲートウェイの方よ。見つけたらすぐに知らせてね」
ホームゲートウェイとは、光回線を使ってインターネットを使用する際に用いるルーターのことである。
これを使うことで複数台の機器を光回線でネットに繋げることが出来るようになる。
「分かった」
ビル周辺に着くと、二人は近くにある駐車場に車を止め、そこからは歩いてビルへ向かった。
そしてビルに着くと二人は裏口にまわり、裏玄関から中へ入った。
「お疲れ様です」
60歳前後と思われる中肉中背の白毛混じりの男が、透明ガラスで仕切られた反対側の空間からこちらに声をかけてきた。
胸に付いたネームプレートを見ると、井田貴志(いだ たかし)と書かれていた。
「こんばんは。明坂ネットセキュリティーサービスです」
上井は井田に嘘の身分を使ってあいさつした。
「はい。ご苦労様です。柵木ビルの鍛治田部長から話は聞いております。ここに名前を書いてください」
「分かりました」
上井と理栄は言われた通り、あらかじめ用意しておいた偽名を紙に書き、Guestと書かれたネームプレートを井田から受け取った。
「それでは失礼します」
上井と理栄はネームプレートを左胸につけ、すぐにロビーへ向かった。
そして、そこからエレベーターに乗り、指定された5階にある事務所に入った。
事務所の中は、いくつかのパーテーションで仕切られた自然を意識した空間になっていた。
観葉植物を植えた鉢が複数置かれ、壁紙も緑を基調としたものになっていた。
「さてホームゲートウェイはどこかしら?」
理栄がそう言って、あたりを見回した。
「俺はこっち側を探すよ」
上井は入り口から右手側を指さし言った。
「じゃあ、私はこっち側ね」
上井と理栄は手分けしてホームゲートウェイを探し始めた。
探し始めて数分後、上井は壁の端にパーテーションで仕切られた空間を見つけた。
中に入ると、そこにはスチールラックが置かれており、その中の上から二番目の棚にホームゲートウェイが設置されていた。
「見つけたぞ」
上井が声を上げた。
「えっ、どこです?」
遠くから理栄の声が聞こえた。
「こっちだ」
上井はパーテーションで仕切られた空間から出て、手を振った。
「了解。そこね」
理栄はすぐにこちらにやって来た。
「まず、配線を確認するわ」
理栄は外側にある配線のチェックから始め、それからパーテーションの中に入ってホームゲートウェイ周辺の配線を調べ始めた。
「さすがに外には取り付けてないか」
配線を一通り調べ終えると、理栄はカバンからノートパソコンを取り出し、ホームゲートウェイと繋げた。
「行けそうか?」
少しして、上井が理栄に質問した。
「ええ。問題ないわ」
理栄はパソコンの画面から視線を外さずに答えた。
「そこで何をいじってる!」
突然、後方から男の怒鳴り声が聞こえた。
振り返ると、そこには身長が180センチくらいの警備会社の制服を着た細身の男性が立っていた。
「すいません。明坂ネットワークサービスのものです」
上井はそう言いながら立ち上がり、男に方に少し近づいた。
ネームプレートには片山道夫(かたやま みちお)と書かれていた。
「今日、ここで作業するとお伝えしていたのですが……」
上井がそう言うと、片山はしまったというような表情を作り、あわてて謝り始めた。
「すいません。井田から話は聞いております。人がいたので、つい大声を出してしまいました。申し訳ございません」
「いえいえ。我々は全く気にしていませんよ。終わったらすぐに帰りますので、それまでよろしくお願いします」
「はい。それでは失礼します」
片山はすぐに二人の前からいなくなった。
「仕事熱心ね」
理栄がモニターを見たまま口を開いた。
「仕事熱心? まあ、仕事熱心といえば仕事熱心か」
「相変わらず無駄に熱意のある人間に厳しいわね。よし、とりあえずダウンロードは終了したわ。簡易的に見ただけじゃ分からなかったから、あとは持ち帰ってじっくり調べるわね」
「了解。じゃあ、すぐに撤収するぞ」
二人は手早く荷物をまとめて、事務所を後にした。
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