第25話 対面 その2

「お待たせしました。コーラです」


店員がコーラを持ってテーブルにやって来た。


「あっ、こちらにお願いします」


早希がすぐに店員に指示を出した。


店員は鍛治田の前にグラスに入ったコーラを置くと、すぐに下がって行った。


上井は店員がいなくなったのを見て、口を開いた。


「光塚組とは、いつから関係を持っていたのですか?」


「えっ、それは……」


鍛治田は口ごもり、それ以上、言葉が出てこなかった。


「おじさん。この人たちは信用できるから大丈夫だよ」


柵木重則がはっきりとした口調で鍛治田に言った。


「そうか……分かった」


鍛治田の表情から迷いが消えた。


「バブル時代からです。あの頃は正業の人も反社の人も不動産に手を出していたので、その時に知り合いました」


「今は、どのような関わりを持っているのですか?」


「彼らが経営している登野城警備保障に仕事を依頼しているだけです」


「賄賂はいくら?」


「個人的な賄賂はいただいていません。ただ、安く仕事を受けてもらっているだけです」


「それだけではないですよね、鍛治田部長」


上井の一言で、鍛治田の動きが止まった。


そして、少し困ったような表情を浮かべた後、再び口を開いた。


「彼らは、契約している企業の情報を抜いています」


鍛治田は視線を落としながら答えた。


「それをいつ知りましたか?」


「一年くらい前に、彼らから直接聞かされました」


「鍛治田部長は、その後どうしたんですか?」


「少し調べてみようと思い、人を雇って調べたのですが、すぐに彼らに気付かれてしまい、それからはどうすることもできませんでした」


「おじさん。どうしてその時、正直に公表しなかったの? そうすれば他の企業は守れたでしょう?」


柵木重則が少し声を荒げて言った。


「それは出来ないよ、重則君。証拠が何もないんだから」


鍛治田はすぐに言葉を返した。


「そうですね。下手したら逆にこちらが訴えられる可能性もありますしね」


上井は鍛治田の意見に言葉を付け加えた。


「柵木社長は、このことを知っているのですか?」


「いえ。ですが気づき始めています。この間、私に登野城が反社企業でないか調べろと指示を出しましたから。その後、私は登野城の営業部長に会ってもう止めるよう言ったのですが断られてしまい、これからどうしようか思案していた所なんです」


「そうだったんですか」


おそらく、その時、柵木重則の名前も出たなと上井は思ったが、鍛治田の気持ちを考え、そこは黙っておくことにした。


「鍛治田部長、柵木社長は最近その件でかなり悩まれていましたか?」


「はい。おそらく、いま一番悩んでいるのは、この件だと思います。他に社内で抱えている大きな問題はないですし、経営状態も増収増益ではないですが黒字を維持していますから」


「この件について、他に知っている人はいますか?」


「事実を知っているのは、おそらく私だけだと思います。ですが、登野城を疑っている人物なら複数います。柵木は他の部下にも登野城に関することを調べさせていますから」


「そうですか」


「上井さん。お願いです。この件についてもっと詳しく調べてもらえませんか?」


突然、柵木重則が口を開いた。


「まずはクライアントである祐美子さんの許可が必要なので、返答はそれからでよろしいですか?」


上井は冷静な口調で言葉を返した。


「母には、僕の方から言っておきます。それに、もし母が反対したら、僕が依頼を出します。このまま放っておいたら、父の会社からどんどん犠牲者が出てしまいます。お願いします」


柵木重則は頭を下げた。


「重則さん。抜き取りの証拠を掴んだら、どうしますか?」


上井は再び冷静な口調で柵木重則に言葉を返した。


「えっ?」


「社長である父親の誠吾さんに渡します? それとも、世間に公表します?」


「それは……」


「あなたがこれ以上、犠牲者を増やしたくないと言う気持ちはわかります。ですが、何も考えずに世間に公表すると、あなたのお父さんの会社は潰れるかもしれませんよ? そうなった時、あなたはその責任を背負えますか?」


「私が背負います」


鍛治田が話に入って来た。


「上井さんたちが世間に知られる前に抜き取りの証拠を得られるのなら、私はそれを持って警察に自首します。そうすれば、私個人の犯罪になるので、会社のダメージは最小限で済みますよね?」


「本当にそれでいいんですか? 鍛治田部長」


上井は鍛治田に念を押した。


「はい。私のせいで会社が潰れ、多くの人が路頭に迷いました。ここで私に罪を償うチャンスをください」


鍛治田が真剣な表情を作り、上井に訴えてきた。


「それしか方法はないんですか、上井さん?」


柵木重則が聞いてきた。


「いいんだ。重則君。これは今まで黙って見過ごして来た私の罪なのだから」


上井が答える前に、鍛治田が代わりに結論を出した。


「分かりました。彼らがどうやって情報を抜いているのか、探ってみます。つきましては鍛治田部長。お願いがあるのですが、うちのITに詳しい部下に調べさせたいので、夜中にテナントへ入る許可をいただけませんか?」


「分かりました。すぐに手配します」


鍛治田はここに来てから一番すっきりとした表情を作り言った。

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