第29話 一通の封筒

柵木ビル管理事務所の社長である柵木誠吾が、社長室で今度渋谷に建つ新たなビルの建設計画に目を通していると、突然ドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します」


入って来たのは、秘書の石間美樹子だった。


「社長、今すぐこの封筒の中身を見てください」


そう言って、石間は白い一通の封筒を柵木の前に出した。


「ああ。分かった」


言われた通り封筒を開けると、中には次男の重則がカジノと思われる場所でディーラーをしている写真が4枚入っていた。


「これを、どこで手に入れたのですか?」


「今日、会社の郵便ボックスの中に入っていました」


「君以外でこれを見た人は?」


「私しか見ていませんし、誰にも話しておりません」


「分かりました。すぐに鍛治田部長をここに呼んできてください。そして、この写真のことは誰にも話さないでください。いいですね」


「分かりました」


石間はすぐに社長室から出て行った。




その頃、鍛治田は机でパソコンと向かい合いながら、備品管理の数字を眺めていた。


登野城警備保障と離れることになれば、会社の収益は確実に悪くなる。


今のうち減らせるものは減らしておきたい。


そう思い、現場が困らないよう経費の削減策を考えていた。


「鍛治田部長」


顔を上げると、すぐ横に社長秘書の石間が立っていた。


「はい」


「社長がお呼びです。すぐに社長室へ行ってください」


「急用ですか?」


「はい。お願いします」


「分かりました。すぐに向かいます」


鍛治田は立ち上がり、真っ直ぐ社長室へ向かった。


ドアをノックして社長室に入ると、社長の柵木誠吾が手に白い封筒を持って、机のそばに立っていた。


「鍛治田部長。まずはこれを見てください」


柵木はその封筒を鍛治田の前に差し出してきた。


鍛治田が受け取り中を見ると、そこには柵木重則がカジノでディーラーをやっている写真が数枚入っていた。


「社長、これは?」


「今日、会社の郵便ボックスの中に入っていました。監視カメラで誰がこれを入れたのか調べてください。そして、この写真が本当かどうか確認してください」


「分かりました」


これこそ、鍛治田が最も恐れていた事態だった。


このままだと今まで何も知らなかった社長も共犯になってしまう。


「社長。お願いがあるのですが、この件は、しばらくの間、何もせず静観していただけませんか?」


「それはどういう意味です?」


「時間さえいただければ、この問題、全て私が責任を持って解決いたします。ですから、重則君にもそしてご家族にも、このことはしばらく黙っていてもらいたいんです」


鍛治田の話を聞いて柵木は少し困惑した表情を浮かべていたが、少しして表情を元に戻し、口を開いた。


「そういうことですか」


「すいません。よろしくお願いします」


鍛治田は深々と頭を下げた。


「分かりました。初めから鍛治田部長に全て任せるつもりでしたから、私はしばらくの間、静観します」


「ありがとうございます。では、失礼いたします」


鍛治田はすぐに社長室を出て、監視カメラの映像がある警備室へ向かった。

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