第19話 タイムリミット
上井は再び盗撮用メガネをかけて柵木重則がいる闇カジノへ足を運んだ。
部屋に入りバカラのテーブルに視線をやると、柵木重則がこの間と同じくディーラーを務めていた。
上井は奥のバーカウンターでジントニックを注文し、それを持って柵木重則がいるバカラのテーブルに向かった。
「お久しぶりです、下条さん」
席に着くなり、柵木があいさつして来た。
彼は前回、上井が使用した偽名をしっかり覚えていた。
「ああ、覚えていてくれたんだ」
「もちろんです。運の流れを感じられる特別な方なので」
「そんな気がするだけだよ。じゃあ、早速、20万円分をチップに変えて」
「かしこまりました」
上井は懐から財布を取り出し、お金を柵木の隣にいる細身の男に手渡した。
チップを待っている間、ふと隣を見ると、この間来た時に見かけた色白のメガネをかけた男が座っていた。
「この間は、どうも」
上井があいさつをすると、メガネの男は軽く会釈した。
「お持たせいたしました」
柵木が上井の前にチップを40枚置いた。
上井はさっそく受け取ったチップを2枚、バンカーにかけた。
隣にいたメガネの男は、プレーヤーにかけた。
全員がかけ終えたのを見て、柵木はカードシューからトランプを配った。
出た札は、バンカーの合計が8、プレイヤーの合計が6で、バンカーの勝利だった。
「相変わらず、運が見えているのですか?」
メガネの男が話しかけて来た。
「見えるというか、感じるだけです。あなたはどうですか?」
「私はプログラマーなので、全て確率だと思っています。信心深い人が、起きたことを必然だとか神の思し召しだとか、根拠なく言っているだけです。ただ、あなたと永吉さんがそばにいる時だけ、なぜか私も神の思し召しを信じたくなります」
「申し訳ない」
柵木重則は、そんな上井たちのやり取りを黙って眺めていた。
上井は次の勝負に参加するため、チップを2枚、手に取った。
すると突然、横から聞いたことのある声が聞こえてきた。
「このテーブルから運の流れを感じるぞ」
視線を向けると、そこには永吉と名乗る警察官、吉原哲がいた。
「お久しぶりです、永吉さん」
柵木重則が吉原にあいさつした。
「やあ、久しぶり。最近ちょっと仕事が立て込んでいてね」
そう言いながら、吉原は上井の隣に座った。
「下条君と寺越(てらこし)君も久しぶり」
吉原は上井とメガネの男にも声をかけた。なるほど。メガネの男はテラコシというのか。
「どうも、永吉さん」
上井は努めて普通にあいさつした。
「実は今度、長期出張することになってね。今日はその運試しに来たんだ」
吉原が上井の顔をしっかり見ながら言った。
その言葉を聞いて、上井はすぐに吉原が本当に伝えたかったことを理解した。
近いうち、警察はここに踏み込む。
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